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蛇と悪魔


「お前は蛇のようだ」
 そう、あいつは云う。どの辺りが蛇なのかと問うと、最も目につくところならば、その痩身に憎たらしいくらいの長身だろう、と云う。得物は一部になるのかと問うと、あれは自在に操れる尾のようにも、獲物を一撃で仕留める牙のようにも見える、と云う。では十刃一を自負する鋼皮はと問うと、刃をも弾き返す硬い鱗だと云う。そう話しながら確かめるように胸元を滑った白い手の動きに何故だかぞくりとした。思わずその手首をきつく掴む。
「見た目だけじゃねえか」
「それはどうだか」
 ぱちりと視線が絡めば、俺の番だ。重なる色は麻酔のように、金縛りをかけるように。そのまどろっこしいことを宣う口など黙らせてやる。ちらつかせるのは長い舌。呑み込んでやる。逃がさない。
「やはり蛇のようだ」
 俺の気が済むまで食んだ後、あいつは再び、しかし今度は俄に楽しんでいるかのような声色でそう云った。小さな蝙蝠に化けた悪魔に、どこまでも惑わされる。そんなあいつは、それでも毒はとうに回っているのだと云う。刃を向けたことなどないのだがと一瞬考えたが、既に幾度となく突き刺し、注ぎ込んだ毒がある。依存性の強すぎるそれはもう、確かに抜けることはないだろう。同じようにあいつを口にした俺も、解毒は不可能なのだ。逃げられない。結局は俺もあいつの獲物だったのだ。

(引き合うのはもがく絶望と排除した絶望、どうしたって変わりやしねえその先まで)

蛇と悪魔

蛇が似合うふたりだと思っている

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