140字SS①
*ほんのりR18要素有り
お題をお借りし(https://shindanmaker.com/780366より)書き溜めていた140字SSまとめです
同ページのまま前半ノイトラ視点、後半ウルキオラ視点で分けています
side*5
【月に照らされて / ご褒美ですか?】
今夜も奴の宮を訪れる。従属官の一人も居ない宮は広く静かで、月明かりだけが皓々と射し込んでいる。部屋へ歩を進めると、柔らかい光に照らされた奴の背を見留めた。振り向きざま、こちらを真っ直ぐに映した碧色の宝石。美しいそれを懐中に迎え入れた俺は、まるで褒美を与えられたような心持ちだった。
【間に合わなかった / シーツにくるまって】
誕生日を祝うつもりでいた。けれども急な任務は深夜に渡り、その日付を超えてしまう。特に冷える夜だ。気紛れに創られた季節は、月が変わると同時に雪を降らし始めた。「妙なところで律儀だな」奴に微笑われながら同じシーツに潜り込む。ふたり包まって向かい合ったら、漸くプレゼントを渡す時間だ。
【密着 / 指先は知ってる】
掌をぴたりと合わせ、指を絡めては、戯れに唇で食む。口内に迎え入れられた指先が緩やかに波打つ霊圧を読み取って、不意打ちのように届いた感情が俺の胸を躍らせた。わざと唾液の絡む音を立ててやれば、熱を含んだ呼吸が震える。反った喉から黒髪を梳いて、垣間見えた耳に挑発の言葉を囁いた。
【イイって言うまで止めないよ? / 月曜だけの恋人】
初めてその姿を見たのは七曜の月の日。宵闇に溶ける黒い翼に、下弦の月のような仮面が美しい。「月は其方だろう?」黒い爪が指したのは、天を突く三日月の角。「触角かも知れねえがな」節足の腕を鳴らしてみせた。「では触れるとどうだ?」ぞくりと背筋を震わせた俺を試すように、白い指先が絡まった。
【声をあげたいのにかなわない / 弾く】
声が枯れるほど解号を。祈りの対価は絶望的で、罪からの救いの声を上げることすら叶わない。その闇を弾いたのは夜に溶ける漆黒の翼。真っ白な衣が緩やかにはためいた。祈り疲れてしまったのだろうか。白い手に導かれ、応えるように腕を伸ばす。天から舞い降りたそれは、まるで黒い天使のようだった。
【欲しいものを教えて / 手錠をかけて】
何が欲しいか問うのは野暮だ。片や左眼を貫いた絶望。片や胸元を抉った虚無。それは罪人の証だ。渇きを潤すくちづけは間近に、陶磁器の肌から垣間見えた真っ赤な舌がよく映える。その空洞に感覚は無いと思っていたが、どうやら違うらしい。飛ばした理性に手錠をかけて、対の胸元に喰らい付いた。
side*4
【先にいかないで / 不真面目】
死神の主から十刃の召集があった。ベッドに突っ伏したままのクイントは、ただただ「めんどくせえ」と駄々を捏ねながら、先に行くなと言わんばかりに燕尾を掴んでまるで子どものようだ。「真面目にやるのも悪くはないぞ」長髪を梳いて秘め事を囁いた。褒美に反応した長身が、漸く重たげに持ち上がった。
【感じすぎちゃう / 目眩のなかに埋もれていく】
その長い腕に捕われるとき、毒に侵されたような甘ったるい目眩のなかに埋もれていく。「噛んだか?」「あ?何の話だよ」「いや、忘れてくれ」感じすぎる体は思考までも溶かして、奴をさも牙のある爬虫類か毒虫のように錯覚してしまった。頓狂な問いに首を傾げたクイントへ、誤魔化しのキスを贈った。
【お口のなか、よく見せて / 期待してるの?】
薄く開いた唇から垣間見えるのは、恐ろしいほどに整然と並んだ歯列だ。「口を開けろ」「何だァ藪から棒に」その数はやけに多く見えるが、奥歯も同様だろうか。ずいと顔を近付けて観察していると、奴の頬がかあと上気しているのに気が付く。淡い期待を抱いていたらしいクイントに礼を兼ねてキスをした。
【挑発してるの? / 誘惑のその先に】
その舌が欲しいと、隙間から歯列が覗く唇に指を滑らせた。挑発しているのかと口を結んだクイントを「さあな」と躱しつつ、どちらかといえばこれは誘惑に中るだろう。「数字が欲しいのか?」「少し借りるくらいで良い」「てめえ、紛らわしいんだよ」奴はクスクスと笑いながら、階級を口移しで寄越した。
140字SS①
2021/06/16
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