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ほぼ日刊グリウルSS*2021/05

*R18要素有り
お題をお借りし(https://shindanmaker.com/780366より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの5月まとめです

side*6


【シーツのなかの秘密基地 / 息をはずませて】
小柄な身体を掻っ攫い、息を弾ませてシーツに潜り込んだ。小さな灯りを持ち込んで、かまくらで餅でも食うかの如く間近で向かい合う。ひとつ、四方山話。ふたつ、笑い話。みっつ、内緒話。少年のように尽きない話題は夜に溶け、更ける程にぽつりぽつりとささめごと。鼻先を擦り合わせて、睦言を囁いた。


【整った顔が羞恥で曇った / その気なら帰らない】
別れ難く何度も唇を食む。甘やかな時が次第に情欲を掻き立て、密着した互いの鼠径部に違和感を覚えた。整った顔が羞恥で曇ったのは一瞬で、それとなく向けられた艶やかな上目遣いが胸を射る。「帰るのか?」「そっちもその気なら帰らねえよ」奴の所為にしたものの、浮ついた気分を隠せない頬が緩んだ。


【熱いシャワー / やめないで】
出しっ放しの熱いシャワーが繋げた身体の熱を助長する。立ち込める湯気は白い肌を潤して、しっとりと張り付く黒髪が艶かしい。背面から覗くのは朱を刷いた眦と果実の唇。皮下に透ける血の気配で理性が吹き飛びそうだ。「構わん、続けろ」婀娜やかな吐息と誘惑に乗せられて、切先の躊躇いを振り払った。


【隙間から手を / ご馳走さま】
奴が厨房に立つ所を目撃した。現世から攫ってきた女が食事を摂らない為、軽い菓子を作っているらしい。漂う甘く芳ばしい香りはドライフルーツを練り込んだスコーンだ。「一個くれ」「何だ、摘み食いか」開いたオーブンの隙間から奪い取る。一口に放り込むと、後を引く優しい甘味が胃袋を鷲掴みにした。


【肚(はら)が啼(な)きそうだ / 嗅がないで!】
虚を喰えども喰えども渇きは増すばかりで、埋まる事のない肚が啼哭する。そうして歩き続ける最中、不可思議な半透明の杜を見付けた。深淵には強い霊力の源が沈んでいて、惹きつけられる様に鼻先で枝に触れる。「やめろ」澄んだ低い声が身を弾いて拒絶した。思えば遥か昔から、俺は奴を知っていたのだ。


【たまらず / 小刻みに震えて】
気紛れに創られた四季の中で、冬が嫌いだった。丈の短い衣服と牡丹雪に凍えた身が小刻みに震える。堪らず奴の宮へ転がり込むと、丁度紅茶を淹れている所だ。差し出されたのは蜂蜜入りのミルクティー。一口含むとほんのり甘く、寄せ合う身は温かい。湯気をぼんやり眺めながら、冬への心変わりを認めた。


【視線で果てて / この顔が見たくて】
そのとき奴はどんな表情をしているのだろう。俯いた儘の頬に掌を添えて、顔が見たいと乞う。慰める白い手は頂へ誘導しつつ、碧の視線が真っ直ぐに俺を射抜いた。けれども躊躇いのない動きとは裏腹に、余波を受けたその瞳は零れ落ちそうな色香に濡れている。急激に込み上げた熱を、奴の口が受け止めた。


【してほしい? / こうさせたのは、お前だろ?】
その詰襟を開く時、仄かな背徳感が胸を掻き立てる。白磁の鋼皮は幾度触れようと痕跡を残さないが、奴自身の感覚は変わっている様だ。階級の先、硬度を変えるそれに小指が掠るだけで背がびくりと跳ねる。「もっとして欲しいか?」「こうさせたのは、お前だろう?」挑発を意にも介さない奴の唇が誘った。


【トロトロになってる / もう一回しよ?】
喉元から足首までを隠す長い衣の合わせを解くと、今にも蕩けそうなほど熟れた肢体が露になる。余韻の残る碧の水面がこちらを映しながら揺らめいて、吸い込まれるようにキスをした。「もう一回しようぜ」乱れた長い黒髪を整えてやる。冷めない熱を再び押し当てると、応えた黒い翼がふたりを覆い隠した。


【緊張が愛しくて / 肩に優しく触れたら】
初めて奴の宮を訪れると、その広さに驚いた。加えて家具の類が少ないのは命令を受け外出する時間の方が多いからで、普段はほぼ使っていないのだと云う。「招いたのはお前が初めてだ」共に過ごす事が増えるであろう今後への緊張が愛しくて、奴の肩に優しく触れる。一瞬見開かれた碧が、ふわりと綻んだ。


【いくときはいっしょ / ぐずぐず】
予定のない朝は、寝台でぐずぐずと戯れ合っている事が多い。それでも先に痺れを切らすのは奴の方で、白い手に促されるまま緩慢な動作で身を起こす。目覚めのキスを貰い、台所へ向かう時は一緒に。「会議もねえし、侵入者もねえ」「良い事じゃないか」紅茶を淹れながら、無為に過ごす幸せを噛み締めた。


【知っていたはずだろう? / お願い、秘密にして】
夢魔のように妖艶で、堕天使の長のように気高い。その美しさと桁外れの霊圧に息を呑む。この力があれば序列も変わるのではないか。「知っていた筈だろう?藍染様にもお見せしていないと。これはお前との秘密だ」問いの言葉を紡ごうとした唇を悪魔の指先が遮って、金の瞳が金縛りをかけるように煌いた。


【強くして / 涙のようにあふれて】
渇きを伴う苦痛が涙のように溢れて、その痩身を抱き締めた。溶け合えない別個の体が感情の行手を遮るようでひどく苦しい。「もっと力を込めろ。その方が安心する」背に回った白い手がしっとりとこの身を包み込むと、不規則な波が静まるのを認めた。貫かれた孔が塞がるひとときに、罪無き頃へ回帰する。


【大胆 / ただの遊びだとしても】
それは死神の権力者達の戯れだった。一日指定の衣装で過ごすという事で、虚夜宮は宛ら仮装パーティーだ。落ち着かないモーニングコートで歩くなか、美しい後ろ姿が目に入った。あろう事かその人物は、肩を大胆に出したソプラヴェステを纏うクアトロである。姫君の手を取って、企画への文句を撤回した。


【後ろからなでなで / 目配せ】
ツンと澄ました黒猫が膝を占領する。撫でられるのを待つかの如く動かない後頭部に誘発されて、毛並みを乱さぬようゆるりと梳いた。お眼鏡に敵ったのか、碧の瞳孔が開いてこちらを見遣る。目配せで示した次の要望はキスのようだ。気紛れな黒猫を思わせる奴の仕草が愛おしく、求められるまま唇を寄せた。


【試してみようか / 細い体を】
細い体を軽々と持ち上げて試したその姿は櫓立ち。重力を併せて切先はより奥深くを穿つ。水揚げは手早く、瞬く間に弾けた茎の樹液が乾く暇も与えない。熱を湛えて繋がる身体は匂い立つ梔子の肌と相俟って、濁酒を満たした盃のようだ。酔いが回り腰を落ち着ける頃、蕾に戻った花は静かに掌で眠っていた。
ほぼ日刊グリウルSS*2021/05

2021/06/01

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