ほぼ日刊グリウルSS*2021/06
*R18要素有りお題をお借りし(https://shindanmaker.com/320966より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの6月まとめです
side*6
【夢みたいだ】
微睡みの淵にて、それは星空に紛れてやって来た。白い衣に黒い翼の恋人が窓際に腰掛け、まるで天の使いである。鳩のように飛び立ってしまうのが嫌で、咄嗟にその腕を引き寄せた。「夢みてえだ」月の光を湛えた陶磁器の肌は、宵闇の中で幻想的に浮かび上がる。「大袈裟だな」奴が慎ましやかに微笑った。
【濡れた唇】
口付けの余韻が色濃く残る濡れた唇を、更に味わうように真っ赤な舌が這う。まるで香り立つ熟れた果実で、背徳に魅了され再び齧り付いた。「足りなかったか?」「あんまり美味そうだったからよ」自身も舌で唇を拭うと、錯覚の残り香が鼻腔を通り抜け脳が甘く痺れる。罪に似た欲望に溺れる事も厭わない。
【なぐさめる】
白磁の脚を割った先で、その中心部を掌でゆるりと慰める。それは忽ち花粉を待つ柱頭の如くとろりと濡れて、花に誘われる蜜蜂にでもなった気分だ。蜜を求めて先端にキスをした。口に含み吸い上げると、頭を垂れた黒髪の花弁が乱れてこの身を囲う。溢れ出した愛欲は、種を残す花のように一際強く馨った。
【恋の病】
初めは戦い方や癖を探っては喉元に喰らい付く方法を思索していた。しかしその行動は、奴の思い掛けない側面をも知らしめる。次第に興味へ移り変わり、気付けば奴を振り向かせる事ばかり考えるようになった。今になって思えば、恋の病だったのだろう。奴に話すと、あれほど明確なものはないと笑われた。
【にやにや】
昨夜の情事を思い出す。二人きりの真夜中にだけ見せるその貌は、まるで何処かで聞いた一夜の花のよう。「何をにやついている?」「夜中に咲くでけえ花って何だったかと思ってよ」「…月下美人か?」そっくりだと言うと、奴は首を傾げるばかりだ。白い花弁を隠されては困る。答えは明かさない事にした。
【猫可愛がり】
奴の仕草は時に堪らなく愛らしい。それは身長差を縮める背伸びの爪先。もしくは不意打ちの口付けでぱっちりと開かれる瞳。はたまた懐中へ誘い込めば衣服を緩く掴む白魚の手。そして肌を重ねては、角の先から黒い爪まで触れずにはいられない。それを知ってか知らずか、覗き込む奴との視線がかち合った。
【捨てぜりふ】
「口程にもねえ」永遠に伝わる事のない捨て台詞を吐き、掌の血を振り払った。「終わったか」返り血一つないクアトロが涼しい顔で合流し、殲滅の任務は完了である。「腹減ったなあ」「食事を用意させてあるが、お前も来るか?」楽しみの提案に首を大きく縦に振ると、すっかり気の緩んだ腹の虫が鳴いた。
【切望する】
黒い雨が上がって、魔物を懐中に迎え入れる。帰刃の姿の儘でと切望すると、金の瞳が細められ白い尾に黒が絡み付いた。唇が伝うのは喉仏、孔の淵、浮いた肋骨、削がれた腹筋。獣の爪がまさぐるのは角の根元、長い黒髪、翼の羽毛、燕尾。そうして隠された色欲を暴く時、溶けた蜂蜜の煌きが俺を虜にした。
【内緒だよ】
「花の数を見ておけ」忙しなく任務をこなす中、擦れ違いざま掛けられた言葉を思い出す。一日の終わりに帰りを待つべく奴の宮を訪れると、真っ白なグラジオラスが生けられていた。開花数は十で、傍らの時計が丁度同じ数字を示す。「凄えな、ピッタリだ」開いた扉の向こうから、馴染みの靴音が聞こえた。
【色褪せぬ初恋】
その恋が叶った時、えも言われぬ倖せに満ち満ちた。力さえあれば全て手に入ると思っていたが、却って遠ざけるものもある。碧の瞳を揺らす事ができたのは、力ではなく胸の奥から沸き起こる素直な感情だった。奴が持たぬと思い込む空洞を埋めるように抱き締めた時、白磁の頬が綻んだ事を忘れる日はない。
【初めて見た涙】
加速する劣情を抑え、ゆっくりと時間をかけて進入する。波打つ胸を落ち着かせる様に口付けをして、二人の下腹で擦れる形を持った情欲を掌で包み込んでは放熱を促した。待ち合わせの場所で唇を離すと、途端に碧の湖が水嵩を増し溢れてしまう。初めて見る涙は俺だけを映し、瞬きと共に一筋の跡を残した。
【恥ずかしいこと言わないでよ】
始まりの口付けは恋に落ちる瞬間を繰り返し体現させる。初々しいときめきと反比例するように、数多重ねた体は貪欲さを増した。「もう勃ってんのか」「人の事は言えんだろう」反応を見留めた胸の高鳴りをその儘に下卑た言葉を囁くと、細い膝がこちらの煩悩を押し返す。欲に溺れる為の息継ぎは要らない。
【まるで愛の告白】
梅雨冷えのある日、雨雲が雷を纏って流れてきた。リアルに作られたであろう雷鳴が耳障りだ。悪天候の中からずぶ濡れのクアトロが脱いだ上衣を絞りながら帰還したものだから、咄嗟に自身の上着を掛けてやる。「悪いな」立てた襟に頬を擦り寄せた姿がまるで閨を共にする時のようで、思わず目を逸らした。
【もしかして誘ってる?】
腹部を貫く孔を白い指がなぞる。構造を確かめるように覗き込まれると、頭上から眺めている此方としては雑念が頭を過りどうにも具合が悪い。刹那にぬるりと温かい感触が腹の奥から背筋を這い上がり、舌が使われた事を悟った。「誘ってんのかよ?」「さあな」含みを持たせた唇が、音を立ててキスをした。
【照れている時の変な癖】
奴の表情は意外と豊かだ。眼の動きは特に顕著で、開く、細める、閉じる、瞳の揺らぎ、視線の流れ、興味の対象はとことん見つめるなど様々である。碧の瞳を捉えた儘に不意打ちで愛を囁くと、一瞬だが全ての機能が停止した様に固まってしまう。見開かれた瞳は揺れても、視線が逸らされることはないのだ。
ほぼ日刊グリウルSS*2021/06
2021/07/01