ほぼ日刊グリウルSS*2021/07
*R18要素有りお題をお借りし(https://shindanmaker.com/320966より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの7月まとめです
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【どうしても言えない言葉】
温かな腕の中で目を覚ますと、視界を覆う血色の良い肌にひたと掌を寄せた。蒼く落ちる睫毛の影と規則的な寝息を確認して、対の胸元にそっと人差し指を立てる。奴はこの癖を知っている筈だ。それでも、衝動を口にしたら最後、形にしたら最期。俺の翼は地に落ちて、二度と空を見ることは叶わないだろう。
【強い衝動】
時に湧き上がる卑しい衝動に身を任せる。面映ゆい源から舌の盃に酒を注がせては、奴が慌てる様を愉しむのだ。気を良くして宙で迷う指先を庭の奥へ誘い込むが、形を知り尽くした足取りは軽く、気付けば形勢は逆転していた。握られた掌が熱い。獣の牙がぎらりと光り、欲に濡れた青が俺を金縛りにかけた。
【曖昧な態度】
「君は何書くん?」白蛇の死神が笹の陰から顔を見せる。「いえ、俺は特に」迷う筆を隠し曖昧に濁すと、眼を薄く開いた白蛇は再び笹の向こうへ姿を消した。擦れ違いでやってきたのはセスタだ。「失敗しちまったぜ」書き損じには、自分では表せずにいた言葉が見える。一枚の短冊が同じ願い事で完成した。
【もしかして寂しかったの?】
それは奴が長期の任務に出てから数日経った頃だ。孔の奥が締め付けられる様な息苦しさで眠れず、ふらりと第六宮を訪れた。寝台に脱ぎっ放しの上着を抱くと、胸の痞えが和らいでいく。「寂しかったのか?」原因を認めた途端、馴染みの匂いと霊圧の名残が睡眠薬の様に脳を鎮め、睡魔がこの身を襲った。
(グリムジョー目線【ただの強がり】と繋がる話)
【どうせ知ってたんでしょう】
近頃は気温の上昇が著しい。但し、これも死神の主が組んだ予定通りである。「どうせ知ってたんだろ?」傍らで伸びているセスタは、少々苛つきを隠せない様子だ。「ああ」手に取ったアイスティーの氷が、からんと軽やかにかち合う。口移しで渡した細やかな涼は目論見通りにその熱を鎮め、溶けていった。
【冷えきった指先】
虚夜宮の青空が一日を終えると、直下の砂漠は急激に冷える。その地下に作られた貯蔵庫にて、氷室開きをするように明日の氷を切り出した。自宮に持ち帰ると、丁度訪ねてきたセスタと鉢合わせる。「素手で持つもんじゃねえだろ」痛むことは無いものの、配慮を怠り冷え切った指先を血色の良い掌が摩った。
【意地悪】
容易く吐き出せぬよう、道の根本を奴の手が遮った。蓄積する疼きが甘くもどかしい。先を見越したとでも言いたげに意地悪く口角を上げて、触れていない箇所が見当たらぬほど執拗にこの身を愛でる。束縛を解くや否や源へ喰らい付かれると、その快感は切られた動脈が血を吹くように狂おしく弾け散った。
【見てしまった】
第六宮を訪ねたが奴の姿が見えない。霊圧を辿りながら奥へ進むと、少し開いた寝室の扉から灯りが漏れている。不意に名を呼ばれた弾みで見てしまったのは、一人慰める官能的な姿だ。その声が耳を掠めるごとに下肢がぞくりと甘く痺れて蹲ってしまう。声が、近い。驚く奴の腕を、縋り付く様に引き寄せた。
【振り向きもせずに】
死神の主が合図をすると、使いの破面がデザートを運ぶ。瑞々しい桃のタルトは、紅茶と併せて楽しむようにとの計らいだ。奴は主の方を振り向きもせずにクイントとの争奪戦に駆けて行く。「藍染様、二切れ頂けますか」「此方にもあるから、持って行きなさい」敗北したセスタの肩を、嗜めるように叩いた。
【はいはい、降参降参】
奴の体温は少し高い。この頃は気温がぐんと上がりつつあるにも拘わらず、俺にくっついている時間が多くなった。曰く、この身は仄かに冷たく感じるらしい。此方としては湯たんぽを抱えている気分だが、その姿は快適な場所に合わせて移動する猫のようだ。愛らしさに免じて、降参しておいてやる事にした。
【拭えない罪悪感】
戦闘時にひび割れた豹王の仮面の欠片を密かに持っている。残留した奴の霊圧が変わらず渦巻いていて、側に置くと心地良く探査神経を刺激するのだ。俺達にとって仮面を割られる事は屈辱的で力を奪われるのに等しく、秘密を明かす事は無いだろう。拭えない仄かな罪悪感と共に、御守りのように懐へ隠した。
【肌が疼く】
奴が寝ている隙に湯浴みをする。何も残らない肌が、この時ばかりは忌まわしい。それでも口付けの痕跡は根深く、触れる度に熱を取り戻しては疼いた。「グリムジョー」「何だ、起きてたのか」寝台を軋ませると、奴が目を擦りながら応える。空色の髪を梳いて誘えば、驚いて宙を迷う大きな手に指を絡めた。
【朝寝坊】
会議が始まる時刻になってもセスタの姿が見えないため、死神の主から命じられ第六宮へ向かった。寝室へ足を踏み入れると案の定、奴は夢の中だ。叩き起こすか、それとも。「グリムジョー」色事のように名を呼べば、下心が丁度良い目覚ましになる。はっと目を開いた奴の耳へ、声色を変えて現実を告げた。
(グリムジョー目線【「お前なぁ……」】と繋がる話)
【お願いです、見ないで】
「私に花は見えないが、皆の眼には鮮やかだろう?」初夏に朝顔の世話を始めた統括官から譲り受けた一鉢が、今では寝室の窓を青々と覆っている。「庭仕事してんのか?」「カーテン代わりになるらしい。見られたくないものもあるからな」チラリと空色を見遣ると、ばつが悪そうに大輪の花を突いていた。
【声を張り上げる】
「ウルキオラ!」奴が息を弾ませ第四宮に駆け込んで来た。「そんなに声を張り上げてどうした?」興奮冷めやらぬその腕には二着の浴衣が抱えられており、訊けばトレスの十刃が同胞達に合わせて仕立てたらしい。そして今夜は花火を上げるとの通達もある。揚々とした奴の手から、揃いの浴衣を受け取った。
ほぼ日刊グリウルSS*2021/07
2021/08/01