性的単語二十題(その2)
*R18要素ありお題をお借りし(TOY様より)ピクログで書き溜めた140字SSのまとめです
お題セットの順はそのまま、視点は都度表記しています
01 微熱
side*6
火鉢には灰が必要だ。熱を隠した白い肌を伝って侵入を図ると、燻っていた火種は忽ち燃え上がる。一つ火鉢と違うのは、どれだけ深く埋めても燃焼を促す事である。やがてその身はしっとりと、離れ難い暖かな白磁の艶を纏い始める。「お前こそ湯たんぽの癖に」口付けた矢先に、色絵の唇が柔らかく綻んだ。
02 夜伽
side*4
虚夜宮から離れてしまえば、十刃の霊圧は何者も寄せ付けぬ城壁となる。「お前の思う儘に」どの姿を望むかと続けると、奴は黒い魔物が恋しいと答えた。御簾代わりの翼を広げ、始まりの口付けをする。「ハレムなんてもんは、馬鹿がやるこったな」囲うのは後にも先にも俺だけに限ると、青天の王が笑った。
03 契り
side*6
降り積もる恋慕は肥料に似て、契りを交わした夜の数だけ愛欲を促進させる。埋めた切先が切なく抱き締められると、堪らず果実の唇を奪った。啜るほどに柔らかく熟れた音がする。二枚の木の葉から零れ落ちた雫を拭えば、それはきらきらと青空を反射した。植え付けた種はまた、その身を甘く育てるだろう。
04 蜜
side*4
馨る栗の花の蜜は甘くない。しかし濃い魂を喰らう時に似た充足感は、奴がセスタの力を持ち、元を辿れば命の種であるからだろう。溢してしまうのが甚く惜しく感じられた。一頻り飲み干した俺の唇を、血色の良い指先が拭う。「俺にも飲ませろよ」艶っぽく弾む声が、奴も同じ心地であることを示していた。
05 鎖骨
side*6
奴の痩身をピタリと包む詰襟は禁欲的だが、同時に仄かな色気を纏う。垂れた燕尾か、それとも腰板の隙かと全身を舐めるように観察していた。「寄れば気が済むか?」「バレてたのかよ」鼓動を早めたのは見抜かれた所為ではない。軽く屈んだ首元から鎖骨が作り出す窪みと皺は、その体格ならではの魅力だ。
06 禁忌
side*4
取り零された魂が救われぬ代わりに、虚圏には如何なる禁忌も存在しない。重ねる身体は獣と魔物、絡む尾はヘルメスの杖に似て、堕落はモノクロの世界を美しく見せた。「その姿なら、何でも赦される気がするぜ」奴が月までも喰らうように笑う。口付けと同時に流れた長髪が、月光も宵闇も蒼く塗り替えた。
07 閨
side*6
二人きりの閨に唯一侵入を許しているのは、天窓からの月光だけである。淡い光を纏う白い指先は、まるでこの身に魔法をかけるようだ。「俺にはその牙が扇情的に思えるがな」思わず甘噛みで搦め捕ったが、奴はさも愉しげに犬歯を撫でる。右頬への口付けと共に伝わる吐息が、月光の存在までも忘れさせた。
08 指先
side*4
湯を注ぐと、茶葉に混ぜ込まれた金木犀の香が瞬く間に部屋を満たした。奴は機嫌良く鼻を上げたが、まだ物足りないとばかりに角砂糖へ手を伸ばす。「匂いと味は別だろ」一つずつ調節する指先が何とも愛らしい。「ミルクは必要か?」輝く青天の瞳で頷かれてしまっては、此方も甘やかさずには居られない。
09 寝物語
side*6
後戯は緩やかに、軽い口付けで呼吸を整える。「もう休むか?」「いや、少しばかり惜しい」擦り寄せられた白い唇は、まだ余熱を湛えて柔らかい。「そんならもっとくっつこうぜ」「ああ、暫く眠れそうもない」心臓の奥が冷めやらぬと奴が微笑う。余韻に浸りながら戯れ合う時間もまた、幸せで満ちている。
10 飴玉
side*4
温かな唇が左胸の階級をなぞる。ざらつく舌が皮下の神経を撫でる。その姿は乳離れには早い仔猫かと思いきや、疾うに発情期を迎えた成猫だ。飴玉のようで美味だと奴が笑う。柔く立てられた犬歯が押し潰すと、性感は忽ち背筋を駆け降りる。大型の肉食獣へ変わりゆく眼光が、次は砕けた腰に狙いを定めた。
11 嬌声
side*6
二つの身体を繋ぐ時、臓器を直接触れ合わせるその場所は、外皮のどんな性感帯とも一線を画す。汗ばむ白い下腹を撫でてやると、感覚が体内まで届くらしい。えも言われぬ甘やかな奴の声に、鼓膜から脳髄まで溶かされるようだ。「もっと聞きてえ」碧の雫を唇で掬っては、密やかな吐息にさえ耳を澄ました。
12 痕
side*4
丸めた広い背に唇を寄せる。不意を突かれ跳ね上がった肩甲骨により、鬱血は花弁のように滲んで開いた。「また見えねえ所に付けやがる」両腕を振りかぶって探る様子が滑稽で、それもまた愛おしい。二つ、三つ、筋肉に沿って増やしていく。丁度上着で隠れるであろう印は、俺だけに見える事が肝要なのだ。
13 愛撫
side*6
血の気を隠した白い唇を十二分に解すと、腕の中へしどけなく靠れ掛かる身体は温めたクリームのようだ。肌を食むほどに甘味の錯覚が依存症を引き起こす。「どこもかしこも砂糖みてえ」「お前こそ、シロップでも飲んで来たのか?」独り占めはいただけないと、共にシーツの皿へ引き摺り込まれてしまった。
14 籠の鳥
side*4
この虚夜宮に住まう限り、俺達はある意味では籠の鳥とも言えるだろう。番傘と共に仕立てられた打掛と着流しが密やかな夜の逢瀬を引き立てた。「〝旦那〟とでも呼べば良いか?」閨事の戯れを囁くと、空色の傘は刹那に宙を舞う。全身を攫った温もりの中で、袷に隠されていた高鳴る鼓動に漸く気が付いた。
(公式デザイン和装を拝借して遊廓ごっこ)
15 戯れ
side*6
美しい打掛を身に付けた白磁の肌の持ち主が、青空を模した傘の中へ足を踏み入れた。どこか特別な色気を纏う姿から目が離せない。「とても遊びとは思えねえ」「身請けなら受けて立つぞ」挑発的に微笑う笹紅の唇に惑わされ、噛み付くように奪い取った。相愛の戯れは、どんな芝居よりも狂おしく胸を打つ。
(【14 籠の鳥】と対になる話)
16 水音
side*4
湯が浴室の床を叩く音が聞こえる。手拭いを運んでやると、ひと時の間に目を奪われた奴の肌は磨り硝子越しでも濃く鮮やかだ。「覗きたァ良い度胸だ」「折角だ、序でに温めろ」揚々と引き摺り込まれた浴室では、買い言葉さえ水に流される。湯だけではない体温の上昇も、艶々と張るその肌が物語っていた。
17 秘め事
side*6
端から悪霊だらけの虚圏ならば、悪戯も菓子も欲張る方が良い。白い指先が温かいチョコレートを掬うが、態と俺の口元を掠って遠ざかる。喉の奥へ消えてしまう前に、その唇ごと横取りを図った。「ただ食うより美味え」返礼に噛み砕いた飴玉を口移しすれば、これから始まる秘め事は甘い予感で満ちている。
(10月31日 ハロウィン)
18 唇
side*4
この身を組み敷き鼻先で衣の隙間を探る姿は、四足の獣と見紛う程である。鬣に似た豊かな長髪へ手櫛を通すと、牙の存在を微塵も感じさせぬ口付けが甘い夢を見せた。揺蕩う尾を眺めている間に、衣は足首まで解かれてしまう。伸ばした手は甘噛みで捕らえられ、愛おしい牙は鋼皮を貫かずに髄まで届くのだ。
19 媚態
side*6
白磁器の唇に弾いた一雫の葡萄酒が、濃く鮮やかな血液のように目を奪った。甘い果実の香と共にひんやりと触れた器から流れ込むアルコールが緩やかに喉を焼く。奴の舌が丁寧に俺の口端まで拭うと、間近の赤色で早く酔いが回るようだ。誘惑に微笑う白は、その掌に転がされても構わないとさえ感じさせた。
20 睦言
side*4
無為に過ごす時間を間近の青空が明るく照らす。「こうも暇だと腕が鈍っちまうぜ」青空の持ち主がぼやいているが、反して俺の膝で寛ぐ姿はまるで日向の猫だ。「手合わせしてやろうか?」「潰すのも違げェし、潰されんのも困る」「我儘だな」ささめき合う言葉に意味は無くとも、このひと時に意義がある。
性的単語二十題(その2)
2022/11/11