恋人に「してあげる」10題
*R18要素ありお題をお借りし(TOY様より)ピクログで書き溜めた140字SSのまとめです
お題セットの順はそのまま、視点は都度表記しています
01 なでなで
side*6
白磁の肌にくっきりと陰影を刻む奴の睫毛は、今にも吸い込まれそうな魅力に満ちている。涙を拭うように親指の腹で撫でると、それは髪より柔らかく、胸の奥まで擽られる心地である。「猫じゃらしでも振ってやろうか?」「てめえだから良いんだろ」戯れつく先にはいつでも、馴染みの体温が不可欠なのだ。
02 爪きり
side*4
人の姿を保つ間、伸びた爪は少々煩わしいものである。時に力加減を忘れる奴の手は案の定、自らの上着を引き裂いた。「鉤爪は戦闘時だけで充分だろう」血色の良い手を引き寄せ、爪を切る。行儀良く座してじっと指先を見つめる様がどうにも愛らしく、次は足を見てやろうと意気込まずにはいられなかった。
03 平気なフリ
side*6
精巧に創られた残暑は人の世に似て厳しい。ふと差し出されたブルーハワイ色のかき氷と、涼やかな碧の木陰が瞬く間にオアシスへ誘う。しかし思わず頬張り過ぎたのがいけなかった。針を刺すような頭痛に平気なふりをしたつもりが、顔に出ていたらしい。器でよく冷えた白い手が、額から痛みを吸い取った。
04 差し入れ
side*4
死神の主は任務へ赴いたセスタを気に掛けられたのか、俺に視察を命じられた。「こんな辺鄙な場所に居るわけねえだろ!」「最上大虚か?」独り喚く奴は案の定、早々に匙を投げたらしい。「差し入れだ」背伸びの口付けは苛立ちを鎮めることに成功したようだ。奴は目の色を変えて、探査神経を集中させた。
05 キス
side*6
一口にキスと言っても、唇だけとは限らない。白磁の肌に熱を与え、黒い爪を噛み、角の先端を食む事も、キスにあたるだろう。とても肉食獣に襲われているとは思えないと奴が微笑う。「獲って喰うのに爪や牙が必要とは限らねえ」熟れゆく粘膜を啜る事さえキスであり、その身を捕食する行為と同等なのだ。
06 濡れた髪をフキフキ
side*4
湯浴みを終えたばかりの奴の髪に手拭いを当てる。水分が溶け込んだ明るい空色は、雨上がりに似て涼しげだ。手元の布が吸水を繰り返すほどに、それは柔らかな鬣の面影を湛え始める。「ドライヤーかけちまうぜ」「少し待て」吸い付くような肌触りが少々惜しくなり、手櫛を通しながら整えるふりをした。
07 応援
side*6
任務から帰還するなり、奴は直ぐ様机に向かった。「共眼界と文書で報告せよとの達しだ」小難しい文面に手出しは不可能だが手持ち無沙汰も落ち着かず、濃い苦味をミルクで中和した二人分の紅茶を淹れる。「こっちまで眠くなっちまう」「悪いな」奴はカップを空にするより先に、全て書き終えてしまった。
08 ギュッと
side*4
喉笛を擽っていた牙が胸元の孔を掠めると、神経が緩やかに甘く痺れていく。両手を蒼い長髪に絡めながら、その背をきつく抱き締めた。間近の吐息は空洞を満たし、長い衣の裾から侵入した尾は脚を拘束する。「尻尾から挿れちまおうか」「いや、お前の唇が依々」三日月に覗く牙が、垂涎に煌めいていた。
09 お手伝い
side*6
一人慰めることに抵抗の残る白魚を捕まえて劣情を誘い出す。手伝ってやるなどという理由は建前で、この胸にピタリと収まる痩身と甘やかな吐息に当てられたのだ。自らには触れていないにも拘らず、髄から目眩を引き起こす錯覚が手淫を早める。白い下腹が艶々と蕩ける頃、我に返ったように口付けをした。
10 添い寝
side*4
皓々と降り注ぐ月光を、広げた翼で遮った。膝元に囲う青空はうとうとと微睡みながら、仔猫のように戯れついて来る。どうやら肩から滑り落ちた俺の髪が右頬の牙を擽ったらしい。屈み込んで口付けると、忽ち肉食獣の腕力で捕らわれてしまう。温かな毛皮に包まれるような安息が、揃いの睡魔を呼び寄せた。
恋人に「してあげる」10題
2022/09/10