幸福の行方
思い出が美しく塗り替えられるころ、冷たい記憶は自我を持つ。くるったように振り払うと、それはいとも容易く粉々になるが、同時にあらゆる感覚からの侵入を許してしまう。浅く重たい夢の出入り口。身体はゆらゆらとたゆたうような心地であるのに、細切れの呼吸はどうにも苦しくて仕方がない。そんなとき必ず視界の向こうで朧げに揺れるのは、遠い日に見た白。このまま、あの眩いばかりの白に掻き消されてしまえばいいのに。二度と目が覚めぬようにと。俺はぼんやりとそのなかに吸い込まれてゆく先を期待した。
それなのに。それなのにだ。近頃は平気な顔をして全部潰しにかかる奴がいるせいか、おちおち夢に溺れてもいられなくなった。同じ夢は変わらず見る。ただ、あれに飲み込まれようとする刹那、強引に引きずり出されるのである。しかし不思議と目覚めはそう悪くない。奴が覗き込んでくるのも嫌いじゃない。それでもこの夢に関しては、俺にとって日常生活の一部のようなものであり、濃密に関わる事実であり、やはりおせっかい極まりないことである。——筈なのだが。どうも相反するに近い思考も湧いてくるようなのだ。こんなふうに目覚めることなどかつてなかった。奴は、あんなものまで破壊するのであろうか。否、もうそれは後戻りの叶わぬところまで進んでいるのかもしれない。闇夜をはじいたあの日の記憶も、俺が真白に飲み込まれる夢も、全部。まだ少しここに在ることを、許されたような気がした。
(独りではないことも、悪くないもの)
幸福の行方
UNMASKEDの短編を想いながら
織姫ちゃんをグリムジョーに変えてみる