140字SS/side*4
*ほんのりR18要素有りTwetterの診断メーカー2種からお題をお借りしています
【 一緒に住もう 】
常夜の世界で、生でも死でもない存在の俺に生活という概念は特にないが、人の形を保ち宮を与えられている以上は生活していると捉えても良いだろう。ふと奴が「共に住みたい」と言い出した。何故、と口を衝いて出る前に、はっと思い直す。俺たちはどうしようもないくらい人間味を帯びた関係にあるのだ。
【濡れて、透けてる / 舌舐めずりをして】
息を殺して水浸くふり。ぼんやりと眺める水面は照明を反射してきらきらと揺らぐ。水分を含んだ衣服は重量を増し、羽衣のように透けた燕尾が舞う。何か、聞こえる。視界は一転、眩しい空色。「怒るのか欲情するのかどちらかにしろ。」ツンと返してやれば、本音は後者らしい。ぺろり、餌を前にした獣だ。
【カミサマからのごほうび】
この世界は夜の砂漠。天体は美しく廻るが、作り物のそれでは地表に有機物の一つも生み出さない。「何かあるんじゃねえのか。」ふと零れた奴の戯言に付き合ってみる。果てしなく続く風景の中を疾った。ぱしゃり、水の感触。若草の先には真新しい蕾。さて世界を創る神とやらは、他にいるのかもしれない。
【もう待てない / いきなり、そんなところを】
この衣服は戦闘時、滑空するのに空気抵抗が少ない形である。その筈である。あろうことか奴は裾から腕を差し入れてきた。鋭い爪を持つ獣の姿である癖に、どうしてこんなにも悩ましい触れ方ができるのか。ああ、いけない。ぎゅうと抱きしめ翼の帳を下ろしたら、口角を上げる豹王を尻目にその先を乞うた。
【指先が / 抑えた気持ち】
古びた紙面をなぞる。異国の言葉を変換しながら読み進めると、未知の領域に踏み込むようで癖になる。どうやら愛を謳う詩をまとめたもののようだ。現実の世で抑えた気持ちを夢の中で告白することに意味はあるのだろうか。指先が辿る「愛」の結末。逢瀬には限りがある。煩い奴が来る前に、会いに行こう。
【さみしさを愛と呼ぶ / 欲情で縛って】
貫かれた孔のあたりが疼くようになったのは、奴と親密な関係になってからだった。かつての裏切りと、虚ろな毎日。独りは心地よいものだった筈なのに。この疼きに名前を付けてくれ。閨を共にする意味も、お前ならわかるだろう。欲情で縛って、そして溶けた感覚に刷り込んで欲しい。錯覚は現実であると。
【 心拍数は君次第 】
日常の動作。歩く、運ぶ、戦う、走る、響転、等々。階級が示すように個々の差はあるものの、高い身体能力が備わっている。そう簡単に息が上がることはないが、近頃は別の原因による心拍数の上昇を認めた。手を繋ぐ、共に歩く、話す、くちづけ、閨事、等々。奴も同じだろうか。そして考える今も、また。
【するの、しないの / ささやかな抵抗】
共に過ごす余暇はそれなりにある。中でも奴は俺に触れるのが好きなようだ。戯れているのか、腹が減ったのか、欲求不満なのか。「まるで猫だ」と言ったら毛を逆立てて怒られた。あまりに意地の悪い触れ方をするものだから、こちらも焦れったくなる。しかし喉を撫でた所で、最後には噛みつかれてしまう。
【 音楽室でのひととき 】
虚夜宮内にある部屋の一つに、人の子の玩具が散らばった場所がある。そこは盲目の統括官と小さなそばかすの破面の名残。中心に置かれたピアノの埃をはたくと、まるで黒い鏡のように美しい。思いつくまま鍵盤を叩く。「下手くそ。」不意に聞こえたのは意地悪な豹の声。たまの好奇心を目敏く嗅ぎつける。
【抑えきれない / 想像だけで】
暫く会えないというだけで、日を追って違和感を覚えるようになる。脳裏にちらつく空色。決して肌を傷付けることのない犬歯。斜に刻まれた数字。そして思考を支配するぬくもり。未だ鮮明な記憶に身体を蝕まれ、虚しく飛び散った白い鳩は両手の中で死んでいた。ああ、早く。空に焦がれて、また一人眠る。
【 空にむかって 】
晴れ渡る偽物の空には果てがある。いくら眺めていても、まるで真夜中のように何も見えない。しかしながら一つくらい発見はないものかと、今日もぼんやりと見つめていた。「何してんだよ。」不意に降り注いだ声の主は、途端に夜を破壊してしまった。ああそうか。近すぎるほど、真に気が付かないものだ。
【 もっと撫でて / 甘くくぐもった声で 】
その温かい手が好きだ。髪に触れる時、仮面が無かったらと無理なことを考える。頬を滑る時、擽ったくて目を閉じてしまう。背を支える時、奴は必ず口付けをくれる。それは砂糖とミルクをたっぷり混ぜ合わせたように甘く、思考も感覚も蕩けさせてしまう。くぐもった声が零れたら、奴を素直な獣に変える。
【同じ布団の中 / うわごとのように】
名を呼ばれた気がした。ふと目を覚ますと、隣にいる彼奴はぐっすりと眠っている。気のせいかと再び横になろうとした時、今度ははっきりと奴の声が聞こえた。うわごとのように俺の名を呼ぶ。夢の中の俺はどんな顔をしているのだろう。教えてくれるか。額にかかった空色の髪を梳いて、そっと口付けた。
【秘密だよ / 指先が】
人差し指を唇に当て、にいと吊り上がった口角からは鋭い牙が覗いた。獣を思わせる指先が投げ込んだのは反膜の匪。一つは胸元、もう一つは腹へ。そして世界は暗転し、二人を閉じ込める。制限時間は約三時間だ。伸びをするように翼を広げたら、さあどこへ飛ぼうか。「駆け落ちみてえだ。」奴が笑った。
【君が眠るまで 】
本の頁を捲る。隣に座った彼奴は退屈そうにこちらの様子を窺っていた。暫くして拗ねたように肩へ寄りかかってくるものだから、構わずにいすぎたようだ。奴の頭を仕方なしに膝へと誘導する。「本でも読んでやろうか。」「いらねえ。」ではお前が眠るまで、こうしていてやる。柔らかい水色の髪を撫でた。
140字SS/side*4
2016/06/10