140字SS/side*6
*ほんのりR18要素有りTwetterの診断メーカー2種からお題をお借りしています
【ごまかせない / 君の証をのこして】
それは深い碧。オレンジの髪の死神に付けられた敗北の傷跡ばかりに気を取られ、傍の視線に気付かないでいた。気に食わなかったのだろう。不意に発せられた強い霊圧により意識を引き戻される。黒い爪の人差し指が胸元を突くと、溢れ出す底知れぬ恐怖に安堵した。それは俺の全てを見透かしてしまう、碧。
【素肌がとろける / かわるがわるに】
共に日常を過ごすようになるまでは、奴は無機質だ、と思っていた。夜毎重ねる陶器のような肌は驚くほど滑らかで、くちづけるたびに血の気を帯びるそれはとろけるように甘いミルクティー。ひやりと薄い唇が「お前は温かいな」と呟いた。かわるがわるに肌を食む俺たちは、まるで戯れ合う獣のようだった。
【感じすぎちゃう / 細い体を】
戦闘能力では敵わない彼奴をこの腕に収めて愛でるとき。それは角の先から順番に。黒髪を梳く。隠れた耳を擽る。喉笛にくちづけて頸に指先を。胸元の孔をぺろりとひと舐めしたら、4の階級を頂く。乱れた呼吸で肋骨が浮くのを確かめて。きゅうと締まった細い腰を捕らえる頃には、さあご褒美の甘い蜜を。
【弾く / 口をおおって】
「静かに。」そう紡ぐような素振りで、背後から白い手が俺の口を覆う。塔の頂。澄み切った空気を弾いてゆくその気配は、まだ見ぬ奴の正体か。刹那に影を落とした黒い傘は、槍のように突き刺さる雨を遮った。振り向いたら最期、拭えぬ涙は枯れてくれるだろうか。黒を纏う白い手を、俺はそっと解いた。
【しびれそう / 抵抗しないで】
低く単調な声色がすうと背筋を伝う。神経を痺れさせる、誘惑のように心地よい。しかしその影にはいつもと違う角が二本。薄く大きな翼に覆われる。その深い虚ろな闇に踏み入れても良いだろうか。凍えるようなひどく冷たい汗が滲むけれど、全てが見たい。抵抗を恐れた右手で、魔物の腕をきつく引いた。
【こらえられない / 声は出さずに】
堪えられない激情を劣情にしてぶつけた。どうして悟られてしまったのだろう。その日、奴は決して声を出さなかった。組み敷いた背がひどく苦しげに上下する。俺など軽く振り払えばいいものを。「いつものお前に戻るなら。」最後に奴はそう言った。不意に落ちた雫を白い指が拭った時、二度はないと誓う。
【 それだけは言わないで 】
映るものを記録する奴の眼は精密な硝子細工。レンズと共にICチップを抉り出したら、途端に砕け散る。それはすぐにリセットされるということ。報告のため以外の、例えば俺を映したそれも、容赦なく砕かれているのだろうか。またその眼に映されながらと思うとやけに苛立ち、柄にもなく聞けないでいる。
【ギュってして / 昼間と違う】
この腕に収めてきつく抱き締める。心地よいらしく、「もっと」とねだるように背に腕を絡めてくるものだから、どうにも愛おしい。ひとつ、ふたつ、他愛のない話をして、そのままふたり眠る。とくとくと静かに聞こえる鼓動が合わさると、俺たちは死人ではないような気がしてしまう。安らかな月夜である。
【 キスしてもつらいな 】
ひとたび指令を受ければ、全て従わなければならない。複数人が割り当てられることもあれば、単独での任務もある。気が乗らないが、雷をまともに受けるような仕置きは勘弁である。独り出かける前に奴の顔を見に行く。「早く行け。」涼しい表情でキスをくれた奴に背を叩かれ、渋々任地に赴くのだった。
【ねっとり / 先に待ってる】
「先に待っている。」扇情的な言葉が胸を貫いた。逸る気持ちが抑えられない。忙しなく諸用を片付ける様子に従属官たちが呆れた眼差しを向けていたが、構うものか。息を切らして飛び込んだのは第4宮。奴にまで呆れた顔をされてしまった。けれどお迎えのキスはねっとりと絡みつく蛇のように。夜は長い。
【 最初のキス 】
初めては回廊だった。奴が最初にくれたのは、腰掛けたまま見上げた瞬間。悪戯に廃墟の陰にて。共に同じ紅茶を嗜んだ日。事の初めに青と碧が重なる時。そして戦に赴く朝。例えば二度と動かぬ塊となったなら、消えてなくなる前に。奴は「下らない」と切り捨てるだろうか。しかし全ての時は、一度限りだ。
【 あのこになりたい 】
もし自分が4番であったならと考える。奴より強い。そう思うだけで、ぞくぞくと震える程の笑みが零れてしまう。奴が6番ならば、力で捩じ伏せることは恐らく容易だ。しかしその場合、俺たちは恋仲にあるだろうか。力では手に入らなかったものが今ここにあるのだ。「この儘で良いか。」ぽつりと呟いた。
【舐めまわすように / すべて君の中へ】
褥に沈む白い身体を舐め回すように眺める。生物学上の分類など気にならないほど綺麗だ。先ほど我が身を受け止めたその身体は、まだ仄かに熱を持ったまま。冷めてしまうのが嫌で、そっと抱き締めた。ほんの少し身動ぎしたが、起こさずに済んだようだ。夜の静寂に響く寝息は、間もなく二つ重なるだろう。
【想像しただけで / 慣れない手つきで】
現世から攫ってきた女の部屋に花を飾るという。8番の科学者が、最近フラスコで薔薇を育てたらしい。さて世話役の奴のことだ。慣れない手つきで花を持つ様を想像しただけで笑ってしまう。しかし揶揄うつもりだった俺の予想は見事外れ、綺麗に薔薇が生けられた花瓶を持った奴に「邪魔だ」と一蹴された。
【 願い事をきかせて 】
「何も願うことはない」と奴は言った。偽物の夜空にも星は流れる。柄にもなくロマンチシズムだと思う。そんな俺の心中を知ってか知らずかさらりと返ってきた言葉に憤りを覚え、ぐいと奴の胸ぐらを掴んだ。鼻先が触れ合うような距離だ。動作とは裏腹に低く囁いた俺の願いは、見開かれた碧を揺らした。
140字SS/side*6
2016/06/10