どちらが猫かなんて
大きな猫を飼っている。青空を思わせる色をした柔らかい毛並みの猫だ。やんちゃで気性が荒く物を壊したりしてしまうが、名を呼べばすぐさま俺の元へ駆けつけるし、撫でてやればたちまち大人しくなるのだ。
猫の声が聞こえたので様子を見に行くと、白い毛布にくるまって眠っているようだ。丸まった身体がすうすうと上下している。どうやら寝言のようだった。無性に胸を擽られ、毛布をそっとずらしてその空色をふわふわと撫でた。形を整えずに外出することは少ないため、地毛に触れられるのはこうして寝ている時くらいだ。猫っ毛とはこういったもののことだろうかと、本当は触れたこともない〝猫〟の手触りについてぼんやりと考えていた。
「誰が猫だって?」
油断をしたようだ。大きな身体が起き上がり、ぎらりと光った水面の瞳に映されてしまった。ガリガリと頭を掻いて欠伸をしたのはそう、猫ではない。セスタの階級を持つ十刃だ。
しかし起きてしまったからといって特に気には留めない。少し高い位置になってしまったが、構わず腕を伸ばしてその空色の髪をわさわさと触る。何故だかやめられないのだ。当の本人は眉間に皺を寄せて暫くの間なされるがままだったが、とうとう撫でられることに飽きてしまったようだ。身震いでこの手を払われたと思うと、その無骨な手に捕まってしまった。頭部の右半分をがしがしと荒っぽく撫で始めたが、不思議と悪くはないなと思う。それよりも、仕返しとも取れる奴の様子がやけに滑稽で、身を任せても良いような気分である。仮に俺が〝猫〟ならば、きっとゴロゴロと喉を鳴らしていただろう。
やがてうとうとと下がってきた瞼と、心地よい温かさ。先ほどまで空色の猫が着ていた白い毛布をかけられて、猫のように撫でられながら眠りに落ちたのだった。
(後で「黒猫のようだった」と笑われることになろうとは、微塵も思わなかった)
どちらが猫かなんて
2017/08/10
猫ちゃんと猫ちゃんが戯れ合える穏やかな日常をあげたい