ほぼ日刊グリウルSS*2021/10
*R18要素有りお題をお借りし(https://shindanmaker.com/613463より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの10月まとめです
ハロウィンネタが3話、4目線【踊れ】→6目線【お祭】→4目線【ファビュラス】の順にご覧頂くと、何となく繋がります
side*4
【キミとなら】
「黒崎がくれたんだがよ」奴が物珍しそうに眺めるのは、現世にある珈琲店のプリペイドカードだ。その飲料に馴染みは無いが、話によると非常に美味らしい。「ザエルアポロが義骸に代わるものを完成させたと言っていたな」「それだ!」青の瞳を輝かせた奴の手を握り返して、お前となら、と誘いに乗った。
【アンテッドモンスター】
俺達は死人から生まれた存在だが、人間が想像するアンデットとは趣が異なるかも知れない。「微温ィぜ!」画面越しの銃声を響かせたのは、オレンジの髪の死神から借りて来たゲームに夢中のセスタである。少年の様に遊ぶ姿を眺めていると思考を巡らせる事が馬鹿らしく思え、コントローラーを手に取った。
【幸せでイイデスネ】
「ア・ごめーん」笑う口許を隠す気のない長い袖が揺れる。キスのみだろうと外で距離を詰めるなと釘を刺していたが、無意味だったようだ。「うるせえな、ムードってもんがあんだろが!」「あーハイハイ、幸せでイイデスネー」性欲だろう、と内心指摘を入れつつ、駆け出した二人のセスタの背を見送った。
【最低】
ここ数日は気温の変化が著しく、最低気温を更新し続けている。特に冷える雨の日には、温かい紅茶を手に奴の懐へ潜り込むのだ。「猫耳の生える薬…は飲んでねえか」突然の動作に驚いたのか、大きな手が頭部をまさぐる。「猫は暖かい所が好きだからな」わざと頬を擦り寄せては、奴が慌てる姿を愉しんだ。
【いただきます】
「天に在す我らの父よ」「熱でも出たか?」背筋を震わせながら俺の額に掌を当てたセスタを見遣り、食事前には祈るのが死人らしいだろうと冗談めかして言う。「そんなら俺は、いただきます」「何故俺に向かって云う?」階級に対する敬意だと表したその欲は、いつしか食と並ぶ不可欠なものになっていた。
【しわくちゃなシャツ】
脱ぎ捨てられた奴の上着を下敷きにした儘、背面からその身を受け入れる。胸からも抱かれている様な錯覚は絶頂を早め、間近の香は空が見えぬもどかしさを拭った。「皺になってしまったな」情事の後、握り締めた跡の残る上着を見つめる。「気にならねえよ」奴は嬉しそうに、広げた身頃で俺の背を包んだ。
【歌姫】
渡された音源を基に自らの声を当てていく。繰り返し碧い海を目指し、繰り返し明日の色を塗り替えた。愛を口遊み空を想うと、同時に馴染みの声によるスキャットが曲名の如く反響し、思わずヘッドホンを外す。「まるで咆哮だな」「キーが高えんだよ」燃え上がる鼓動を隠して、譜面を睨む奴を揶揄った。
(ブリコン2の担当曲より)
【呆けたって良いじゃない】
全ての業務を終え、奴と顔を合わせた。先々の指令や雑務を擦り合わせると、暫くは互いに休日といった所だ。晴れやかな空に誘われて晩酌を楽しみ、肌を重ねる。明日は何をしよう、何処に行こう。温かな腕の中で饒舌になる俺は、二人の時間に心底高揚しているのだろう。偶には遊び呆けることも悪くない。
【顔を上げて】
「顔上げろよ」馨る栗の花が鼻腔を抜ける。舌先で唇を拭いながら視線を合わせると、熱を握り締めた奴の親指がしっとりと唾液の軌跡を追った。「まだ充分ではない筈だが?」「勿体無え気がしてな」奴はそう云って、俺の下腹へ口付ける。受け入れる事に慣れたその場所は、鋼皮越しでさえ過敏に波打った。
【唇】
奴はよく唇で俺の髪を食む。帰刃の姿では頻度が上がり、毛繕いをされているような心地である。その膝の上にて、機嫌良く尾を絡めながら蒼い長髪を胸に抱え込んだ。普段より少々硬い毛足に爪を添えると、櫛の要領でさらりと梳く。「お前の真似だ」唇で挟んだ毛先は馨り、この身を抱く腕に力が籠もった。
【沈黙】
間を惜しんで書物を開いたのがいけなかった。抽出時間を超過した紅茶は渋味が強く、少々飲み辛い。ふと揺れる空色を見遣ると茶菓子代わりに角砂糖を噛んでいたものだから、咄嗟に唇ごと奪う作戦に出た。砕けた砂糖は二人の体温でより甘く溶ける。気付けば訳を話す事も忘れ、互いに本を投げ出していた。
【忘れない。忘れられない。】
初めて口付けを交わした日を忘れることはない。それはただ重ねるだけの単純なものであったが、上昇する心拍数と音は胸を貫く孔まで埋め尽くさんばかりに響き渡った。ひとときの夢が終わり目を開くと、奴が眦の仮面紋を上げて照れ臭そうに笑う。初めて見せた表情と共に、その瞬間は今でも忘れられない。
【わたしはただ、幸せになりたかっただけ】
黒に生まれていれば、気付かずに居られた。或いは白に生まれたが為に、辿り着いた。どの道であれ恐らく俺はただ、幸せになりたかったのだ。あるとき、結論の軌道を変える者が現れた。半透明の枝の隙間から瞳ほどの青空が真っ白な夜を照らす。後に破壊を司るその存在は、予想だにせぬ幸福をもたらした。
【意地悪な女神様】
騒がしいと思い来てみれば、セスタと三獣神が火花を散らしている。安易に撃った虚閃の流れ弾が、トレスの宮に被害を出したらしい。「ウルキオラ、丁度良い所に…グリムジョーを頼めるか?」「ああ、摘み出すから待っていろ」頷いてトレスを見遣ると、争いを好まぬ青い眼が、ほっとした様に細められた。
【踊れ】
ハロウィンに先駆け、虚夜宮では舞踏会が催された。支給品のボールガウンに疑問は残るが、仮装としては間違いではない。広間にて馴染みの青空に手を伸ばすと、苦しげに蝶ネクタイを引っ張っていた奴の眉間の皺がみるみるうちに消えていく。「一曲踊れ」言葉を発する前に、その唇を手袋の指先で遮った。
(ハロウィン一話目)
【ファビュラス】
あまりにも非現実的な日だ。魔法がかかるとはこの事を言うのだろう。飾り付けられた真夜中に見る青空。ミッドナイトブルーの燕尾。気高き王は手の甲に口付けを寄越した後、忽ち悪戯好きの仔猫へ早変わりする。先に言葉を遮ったお返しとばかりに、大粒のキャンディを俺の口へ押し込んだ。夜はまだ長い。
(ハロウィン三話目)
ほぼ日刊グリウルSS*2021/10
2021/11/01