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ほぼ日刊グリウルSS*2021/10

*R18要素有り
お題をお借りし(https://shindanmaker.com/613463より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの10月まとめです
ハロウィンネタが3話、4目線【踊れ】→6目線【お祭】→4目線【ファビュラス】の順にご覧頂くと、何となく繋がります

side*6


【割れたカップ】
奴の白い唇に温かいミルクティーはよく似合う。カップ一杯を飲み干す頃、ミルクと茶葉の残り香を纏うその唇はほんのり血を巡らせて、まるで釉薬が美しく発色するようだ。陶磁器の艶に魅了され奪い取ると、それは微かに甘く柔らかい。不意を突かれた右手のティーカップは滑り落ち、花弁のように散った。


【寂しいんでしょ?】
死神の主がクアトロへ命じた任務には、誰を連れて行っても構わないというお墨付きだ。それでも奴は、一人で赴くつもりらしい。「浮かない顔だな、兄弟」霊圧の動きを辿っていると、不意にクインセの従属官が歩み寄る。「寂しいのなら何を迷うことがある?」背を叩く手は心強く、奴の後を追うと決めた。


【残り香】
腕に抱いて寝ていた筈の奴の姿が、寝惚け眼で見付けることが出来ない。まだ温かいシーツには微かな霊圧と馴染みの香が残っていて、ぼんやりした脳で錯覚の恋人を探すように掛布を手繰り寄せた。「本物は要らんのか?」その鮮明な声とキスは、強力な目覚ましになる。目を擦ると、漸く確かな碧が見えた。


【隠し事】
奴に隠し事は通用しない。全てを記録する眼球は微細な筋肉の動きも見逃さず、接続された脳による分析を通し感情や思考まで読み取ってしまう。ふと奴のペースを乱してやろうと思った。掴み掛かる勢いで距離を詰め囁いたのは愛の言葉だ。揺れる瞳に青が混じり、隙を突いた口付けが精巧な回路を狂わせた。


【灯火】
死神の権力者達が留守の日、虚夜宮の照明設備が故障した。操作室は鬼道を鍵としており、復旧は帰還を待つ他ない。無為な時間に苛立ちを覚える中、ふと目前に灯火が一つ現れる。「暫くはこれで我慢しろ」「火なんてあったか?」「虚閃に手を加えただけだ」燭台の炎に暖かく照らされた奴の姿に安堵した。


【闇におちる】
黒い雨に打たれながら、中心に在る魔物の腕を引いた。直後の霊圧はこの身を蝕むかも知れないと危惧する唇を攫って、本能が求める力の味を見る。それは非常に美味であるが、闇の底へ引き摺り込まれるような目眩が四肢の自由を奪う。「だから言っただろう」雨が上がる頃、返された口付けで目を覚ました。


【キミは知らない】
奴は知らない、視線が示す興味を共に追いかけてしまう事を。奴は知らない、髪を梳く白い指先に眠気を誘われる事を。奴は知らない、眦の仮面紋を擽る唇に情欲を掻き立てられる事を。試しに視線を捉え、黒髪に指を通し、頬の仮面紋に口付ける。同じ感覚を物語る溶け落ちそうな碧に、初めて気が付いた。


【石橋を叩いて】
統括官より死神の主へ贈り物を用意せよとの達しが出た。力を与えられた事は確かだが、尊敬や感謝という言葉には寒気がする。やらなければ制裁があるだろうし、石橋を叩いて渡る様な品選びも面倒だ。「花の準備があるが、お前の名も連ねてやろう」唸る俺の元に助け船を寄越した奴が、天の使いに見えた。


【この瞬間を忘れない】
昔の話だ。半透明の枝の奥に沈む存在が頭から離れず、折を見ては逢いに行った。拒絶の言葉はいつしか消え、姿を見る事は叶わずとも、心地良い霊圧を浴びながら静かな時を共に過ごす様になる。「また来る」「次は何時だ?」思わず脚を止めた。初めて奴から声をかけられた瞬間は、今でも忘れる事はない。


【紅茶の淹れ方】
クイントの従属官が云うには、湯は高い位置から注ぐのが良いらしい。その正しい淹れ方を試してみるが、熱湯はポットから外れ茶葉まで溢してしまう。「要は茶葉が回れば良いんだ」見兼ねたクアトロが、沸騰の気泡が収まらぬ内に直接ポットへ移し替える。冷たいカップに注ぐと、飲み頃の香が鼻を擽った。


【ミント】
太陽の髪色をした女が、期間限定と賑やかに謳う現世の菓子を置いて行った。試しに開封したチョコレートは清涼感が癖になるミントの風味だが、それにはもう一つの魅力がある。「お前に似ているな」「俺はてめえかと思ったぜ」味見をしに来たクアトロと並べたニ粒は、互いを思わせる色に染められていた。


【ポーカーフェイス】
ポーカーフェイスを崩さぬ奴の立ち振る舞いは甚く近付き難い。しかしテリトリーに踏み込んでしまえば殊の外話したがりで、眼や唇の微細な動きから感情を読み取る事も可能だ。「俺の顔に何か付いているか?」そうして奴は上目遣いで胸を射る。特権を一身に受けている実感に、緩む頬を隠しきれなかった。


【今だけ】
今だけの首輪で二人を縛る姿は首引き恋慕。繋ぐ金属は、張り詰めても、弛んでも、決して離れる事を許さぬ因果の鎖を思い出させた。空洞を埋めてくれと碧が乞う。ゼロの距離で行き場を失くした鎖が口付けと共に鳴り響く。埋めた切先は貪欲に碧を恋う。互いの身体で塞がれた孔に、仮初めの安息を感じた。


【真夜中の知らせ】
翻る白い衣の影と緩やかな風が奴の来訪を告げる。宵闇に浮かび上がる仮面に目を奪われ、獣の脚で地を蹴り上げてその身を攫った。空に一番近い塔の上は特に冷えるものの、重ねた唇はしっとりと温かく、肌を寄せては体温を分かち合う。ふと見上げた夜空には、奴の仮面を映し取った様な半月が輝いていた。


【お祭】
ハロウィンの祭りで、悪霊の最たるものである俺達が仮装するなど滑稽な話だと思っていた。但しそれは今しがた覆り、着崩れかけていた燕尾服を慌てて正す。純白のドレスに幾重にも施されたレースが、軽やかに、淑やかに、翼を広げる様に舞う。そこへ溶け込む白磁の肌が、暖色の照明で柔らかく色付いた。
(ハロウィン二話目)
ほぼ日刊グリウルSS*2021/10

2021/11/01

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