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ほぼ日刊グリウルSS*2021/11

*R18要素有り
お題をお借りし(https://shindanmaker.com/613463より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの11月まとめです

side*4


【麻痺】
その腕の中で浮かんでは沈み、やがて空と海の境界線が消滅する。時間の経過と共に思考能力は麻痺し、水漬く底から眩い空をぼんやりと見上げるばかりだ。しかし感覚は鋭敏で、青い魚のふりをした奴の唇が肌を突くだけで呼吸すら儘ならない。口移しの息継ぎは心地良く身を沈め、二人きりの深海で溶けた。


【すれ違い】
十刃宛の書類を配って回る。最後に第六宮を訪ねたが留守で、霊圧の名残を見るに擦れ違った様だ。探査神経を尖らせると反応が近い。「てめえの霊圧を追いかけたってのに、戻って来ちまった」「俺は探さずに済んだがな」奴が死神の主から言付かった報せと此方の書類を交換すると、一区切りの茶に誘った。


【スパイス】
空色の髪の上から目隠しの帯を結わえ、少々スパイスを加えるような気分で愛撫を試みる。奴の硬い筋肉は、唇で軽く食むだけで収縮と膨張を容易く読み取る事が可能だ。つい分析にかまけていると、この身は転がされ天井を見上げる体勢に変わる。息を荒げた唇が笑みを浮かべた瞬間、視界が暗闇に包まれた。


【最後の灯火が消えたとき】
同族達を手に掛け最後の灯火が消えたとき、感情も感覚も亡骸と共に闇夜へ散った。眼に映る無だけがこの身を構築する。それならば、今見ている雲一つ無い青空も同じだろうか。昼の光が夜と共存する事は無いが、必ず表裏一体である。掻き消されず傍に在る事を許された幸福は、かつての認識を塗り替えた。


【これちょうだい】
トレスの十刃よりパンケーキを貰い受けた。従属官達と様々な味付けを試していた所、食べ切れなくなってしまったらしい。「美味そうじゃねえか」甘い匂いに釣られてやって来たセスタの腹が間髪入れずに鳴る。「分けてやるから安心しろ」食べ盛りの少年のような眼差しは、茶会の時間を早めるには充分だ。


【あどけない目】
「もっと仲悪いと思ってたっス!」虚夜宮から離れた地点での任務中に出会ったのは、データに残る躑躅色の仮面紋を持つ少女だ。あどけない瞳が、興味津々に俺とセスタを交互に見る。「この辺りは他の十刃も来る。距離を取っておけ」ガンを飛ばしにかかった空色を押さえつけ、手を振る少女に背を向けた。


【武器の在処】
「斬魄刀はどうした?」訪ねて来たセスタが珍しく丸腰だ。「あー、置いて来ちまった」帰宅した猫のように伸びをしながら、この宮は何処よりも安全だと豪語する。「肉球マッサージでもしてやろうと思ったんだがな」「待ってろ!」瞬く間に響転で消えた大きな愛猫の間食を用意すべく、台所へ向かった。


【休日引きこもり】
冷雨を繰り返す毎に気温が下がる。それは人の世に、もしくは死神の主の故郷に似せてあるのだろう。外気を吸収した桟は一足先に冬を迎えたように冷たい。「また窓際に居やがる!」冷え切った手を、奴が両手で包み込む。「お前が居るから油断した」指先から伝う体温は血流に乗り、瞬く間に心臓へ達した。


【マリアージュ】
「あの時マジで新婦が来たかと思ったぜ」返却前に改めてハロウィンの衣装を眺めながら、あまりに誂え向き過ぎだったと奴が云う。「あの方に筒抜けだとしても、そこまでなさるとは思えん」「それがよ、後でどうだったか聞いて来やがった」いつになく淡々とした返答は、死神の主へ一抹の疑いを抱かせた。


【私の幸福論】
在りし日の拠り所と異なるのは、それが眼に映る様になったことだ。奴の豊かな感情は全て顔に表れる。この身に沁み渡る体温は健康的な肌の色が示す。纏う青空は眩しくとも眼を潰すことはない。その愛が続くならば、過去の幸福論を捻じ曲げることも厭わない。更なる可視化を求め、奴の唇へ背伸びをした。


【僕は非常に複雑です】
「折角“いい”と付くのに、夫婦に限られるとは非常に複雑です」力説するクイントの従属官の熱に当てられた様だ。ふと青空が恋しくなり奴の宮を訪ねると、葡萄酒に似た香りが鼻を擽った。「ウルキオラ!変わった茶葉が手に入ったんだぜ」眦の仮面紋が上がり、温かな手に引かれる。成程今日は、いい日だ。
(11月22日、いい夫婦の日)


【口づけを】
虚夜宮の空に分厚い雲が現れ、天候は氷雨に変わった。小さな氷の粒が時折窓を叩く。「寒みィか?」「少しな」奴が薄手の毛布を巻き込みながらこの身を懐へ囲った。「グリムジョー」心地良い温もりを一身に受けたいと望むばかりに、口付けをせがむ。奴は嬉しそうに俺を抱き締めると、温かな唇を重ねた。


【合鍵】
奴は無機物に対して、時に力加減を忘れる。話に夢中でドアノブをへし折った事もある。「施錠の概念を知らんのか」「開かねえとつい」修理の頻度が増えるのも面倒だ。ならば勝手に上がってくれて構わないと、合鍵を一つ渡した。何やら上機嫌で鍵を見ているが、これで無闇に扉を壊す事は無くなるだろう。


【キミへと投げたモノ】
炬燵を導入するにあたり、奴は低いテーブルのものを選んだという。設置された部屋を訪ねたが、一望しても空色が見当たらない。「ウルキオラ、みかん取ってくれ」声の出所は炬燵の中である。「なまくら箱とはよく言ったものだ」その方向へみかんを一つ投げてやれば、突き出た右手が後ろ手に掴み取った。
ほぼ日刊グリウルSS*2021/11

2021/12/01

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