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ほぼ日刊グリウルSS*2021/11

*R18要素有り
お題をお借りし(https://shindanmaker.com/613463より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの11月まとめです

side*6


【後悔】
その仔犬の尾を誤って踏んだが為に、顔を合わせるたび唸られるようになってしまった。更にそいつは時々ディエスと親しいクアトロを頼ってやって来る。「詫びでも入れたらどうだ」「見向きもしやがらねえ」その腕へ潜り込まれては、奴に触れる事も儘ならない。後悔の念にまで苛立ちを覚え、頭を抱えた。


【揺れるカーテン】
近頃の冷え込みで窓際が寒いとの声が上がったらしい。面倒が先立ち、支給されたカーテンは無造作に放り投げていた。そんな時節に招いた奴の白い頬は、まだ雪も見ない内から既に氷の様に冷たい。「変温動物かよ」「馬鹿にしているのか」急いで取り付けたカーテンがこの冬、外気で揺れる事はないだろう。


【僕(私)は此処に居るから】
閨事にて、時に逸る気持ちを抑え切れず強い刺激を与えてしまう。唇は階級を喰い、切先はその身が一番跳ねる気に入りの場所を抉った。急激に感情が揺らぐのだろう。艶と憂いが入り混じった奴の声が、何度も俺の名を呼ぶ。「俺は此処に居るぜ」緩やかに唇を重ねると、碧の瞳が安堵の涙と共に閉じられた。


【本当の笑顔】
奴が笑う事は殆どなく、稀に見ても切っ掛けは不明だ。動かぬ陶磁器の唇をどうにか笑わせてやろうと、物理的に擽る作戦に出た。首も駄目、脇腹も駄目、足の裏も駄目。そうして頭を抱えた隙に、黒い爪が俺の脇腹を捉える。「ぶっ、ははは!」涙で滲む視界に映り込んだ微笑みは、色絵の花が綻ぶ様だった。


【届いてはいけない想い】
奴を抱いて眠りにつく時間は、必ずしも幸せばかりではない。時にその白い肌に牙を立て、喰らい尽くす妄想が頭を過るのだ。しかし現実に破壊の手を伸ばせば、可不可に拘らずやがて自身にも及ぶだろう。腹部を貫く孔がキリキリと痛む。届いてはいけない想いに蓋をし、意識を逸らすべく黒髪を一筋喰んだ。


【あの日のこと】
去年と同じ光景だ。辟易した様子のクイントの腕には、棒状の菓子が溢れている。「減らしてやるよ」「あァ、助かる」誕生日に災難な事だ。早速齧りながら帰路につくと、同じく協力したらしいクアトロと鉢合わせた。「チョコ増量のくれ」「苺味もあるぞ」クイントには悪いが、例年細やかな楽しみである。
(11月11日、ポッキーの日とノイトラ誕)


【最高】
閨を共にする時だけは、口付けひとつで奴を手中に収めることが可能だ。動作を最小限に抑えている白い唇から真っ赤な舌が垣間見えると、肉へ牙を立てた瞬間のように心拍数を最高まで導いた。ふと、血の気を巡らせたその唇が襟の隙間を縫って所有の痕を残す。気付けば疾うに、俺は奴の手の内にあった。


【私の道標】
例えばその白い燕尾が黒に翻る時、漠然とした寂寥感に苛まれ背を追い掛けた。例えば腰掛けた椅子から垂れた裾により、遠くからでも奴を見付ける事が可能だ。例えばその身を抱き締めた時、二枚の隙間から忍び込み帯を緩める背徳感が胸を掻き立てた。一番似合う衣服の形は、より近付く為の道標でもある。


【ネクタイ(タイ)】
現世へ出掛ける為の洋服選びに頭を抱えていた。上着一枚に慣れた身体には、どの服も窮屈に感じてしまう。「いっそ締めてみてはどうだ」羽織っていた柄入りのワイシャツに、奴が細身で無地のネクタイを緩く合わせた。「悪くねえ」澱んだ気分が晴れていく。それは奴の手で選ばれた品でもあるからだろう。


【聖女様】
クリスマス用のステンドグラスを前に、奴が点検をしている。「下っ端の仕事じゃねえのか?」「何枚か割れたらしい。それで俺に回ってきた」透過具合の確認に手元の灯り以外は消してくれと続ける。燭台の炎に照らされた硝子の宿木を眺める横顔は、まるで神の使いだ。胸を射抜かれた儘、その唇を奪った。


【風鈴】
鐘にしては軽く、鈴にしては大きい、風鈴に近い音が聞こえる。籠を抱えたクアトロへ辿り着くと、その中で鈴虫が翅を震わせていた。訊けば虫捕りに出掛けた統括官とそばかすの破面からの土産らしい。「人間や死神は風情を感じるそうだ」その感覚には至らないが不思議と耳障りではなく、籠を覗き込んだ。


【あなたの側に居られるならば】
絡めた尾を命綱に、奴が持つ絶望の淵に立つ。その向こうには、貫かれた孔が示す通り何も無い。それでも暗い庭の奥へ歩を進めると、奴が「満たされるようだ」と艶やかに微笑う。「お前の側に居られるならば、」次の言葉を口付けで遮った。紡ぐ隙さえ許さない。これから牙を立てるのは、魂ではないのだ。


【猫の爪】
人の姿に慣れた今でも、中級大虚に立ち戻る帰刃の脚は勝手が良い。戦闘時の利点であるが、近頃はそれだけではなくなった。白い指先が仔猫をあやすように肉球を柔く揉み、迫り出した爪の曲線に触れる。奴が甚く気に入りの感触は、俺もまた同様だ。飼い猫も悪くないなどと、すっかり気が緩んでしまった。


【氷柱】
冬の透明な空気の中で浴びる奴の霊圧は、細い氷柱が降るようだ。鋼皮が痺れてしまう前に、溶かす為の口付けは白魚が動けなくなる迄。鉤爪で擽った翼の付け根を覆う羽毛が膨らむと、長い衣を解かぬまま新雪へ忍び込む。血の印を残し、樹氷を食みながら進んだ最奥で、馨る源を雪解けの水ごと掬い取った。


【猫の爪のような月】
獣の掌をふたつ重ねて天へ翳した。猫の爪のような月と俺達の鉤爪はよく似ている。骨の目立つ一回り小さな手を柔く握りながら爪に口付けると、指先が僅かに跳ねた。「爪まで感じるのか?」「お前の体温は神経に響く」仕返しに軽く噛まれた爪の先から、一瞬だが痺れるような霊圧を叩き込まれてしまった。


【黒衣】
その夜、奴は漆黒のドレスで現れた。声を出せぬ儘、レースから覗く白い手に軽々と押し倒される。黒い紅を差した唇が触れ合うか否かの瀬戸際だった。はたと目を覚ますと、普段通りの奴が首を傾げている。「妙な夢を見ちまった」下心を誤魔化す様にその身を抱き寄せ、誕生日祝いを改めて考える事にした。
ほぼ日刊グリウルSS*2021/11

2021/12/01

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