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ほぼ日刊グリウルSS*2022/01

*R18要素有り
お題をお借りし(お題.com様より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの1月まとめです

side*4


【しのび逢い】
死神の主への挨拶を終えると、広間は立食の宴に変わる。各々酒が回る頃、人目を忍び少し離れた回廊にて待ち合わせの空色へ手を伸ばした。「悪りィ事してるみてえだ」「抜けてはならないとは言われていないからな」屁理屈を並べて口付けを交わす。新しい年を迎えてなお、変わらぬ関係は何よりの慶びだ。
(1月1日、元日)


【星が降る夜】
冬のすっきりと晴れた夜空は、天体がより近付いて見える。二つの青い星が流れた瞬間、しなやかに舞う肉食獣が音も無く飛び込んで来た。「星座が落ちたかと思ったぞ」鬣のように靡く長髪を巻き込みながら、奴の背に腕を回す。「空は寒くて仕方ねえ」おどけて笑うその星は、地上へ降りてなお輝いていた。


【気がついたらいつも思ってる】
例えば天蓋の青空を見上げたとき、なでつけた髪を思い出す。例えば宴席で振る舞われたバタフライピーの茶と浮かぶ花弁は、眦の仮面紋のようだった。例えばコロコロと表情が変わる天の月は、何も無い筈の胸を射抜く青い瞳である。そうして固有の色彩を拾いながら歩くと、最後には奴自身に辿り着くのだ。


【あなたの匂い】
回廊の先に見えた奴の背を追うと、微かに青菜の香が漂う。「そういや今朝、草だらけの粥を食わせられたぜ」ウンデシーモの従属官から強く薦められたと云うが、様々な料理を口にした主人の身体を慮ったのだろう。「人間の食い物は時に腹が靠れるからな」一瞬過った猫草については、黙っておく事にした。
(1月7日、七草)


【赤いかんざし】
番傘と共に仕立てられた衣装は撮影後も保管されている。奴は何を血迷ったのか、絢爛な打掛に太い帯、赤い簪までくすねて来た。「ぜってえ似合う」そう意気込んだ癖に、不十分な着付けと寝台から流れる俎板帯だけで気を遣ってしまったらしい。結いきれぬ髪から簪を取ると、奴の袖を引き床入りへ誘った。
(ブレソル女性破面衣装より)


【読みかけの本】
活字を追う視界の端に、先程からチラチラと空色が映り込む。手元の物語は丁度佳境を迎える所で暫く気付かないふりをしていたが、気配に耐え兼ねて顔を上げた。不満そうな青の瞳がじっと此方を見つめている。「本に妬いているのか?」読みかけのページに栞を挟むと、やきもち焼きな愛猫に手を伸ばした。


【冬の大きな雪だるま】
雪の晴れ間を縫って第六宮へ赴くと、軒下を占拠するディエス程の雪だるまが視界に飛び込んできた。「楽しそうじゃないか」「そ、それ俺じゃねえから!」奴の様子を見るに、従属官達と子供じみた遊びに興じた事を明かしたくないらしい。「少し手を加えてやろう」雪を崩さぬ儘、その胸元を手刀で貫いた。


【うなじ】
奴は好んで俺の項へ触れるが、見る側としてもそれほど良いものだろうか。ソファの背凭れから忍び寄り、少々悪戯を仕掛けることにした。空色の襟足を掻き上げて血色の良いその場所へ口付けをする。「ぶっ、は、擽ってえ!」竦めた肩と空振りの腕が何とも愛らしい。成程これは、癖になりそうである。


【ちゅーして】
「ちゅーしてくんねえと、嫌だ…」転寝する奴の元へ毛布を持ち歩み寄るや否や聞こえた寝言がこの身を突き動かした。「はっ…何かしたか?」「駄々をこねていたから叶えてやったぞ」唇を示すと、夢の内容を思い出したのだろう。すっぽり被ってしまった毛布から青空が見える迄、少し時間がかかりそうだ。


【まどろむ視界】
下腹の奥で二人分の体温が混じり合う感覚は、臓器から蕩けるようにゆっくりと身体の自由を奪う。温かな腕が毛布を巻き込みながらこの身を強く抱き締めた。間近の額を合わせて繰り返す浅い口付けが、胸を貫く孔さえ埋めていくようだ。やがて微睡む視界に青空が広がり、落ちた夢の先には朝が待っている。


【羽がふるえる】
翼の付け根に顔を埋めながら、奴が温かいと云って離れない。獣の掌は腹部を抱いていたが、次第に冷えてきたのか欲情したのか、下腹から内腿の体毛を擽り始めた。更に温かい場所を目指す手に翼は震え、髄が痺れるのは最早寒さの所為ではない。孔の縁に感じた奴の吐息は、顔を見ずとも色欲に濡れていた。


【豊かに流れる髪】
豊かに流れる蒼い長髪を手に取り、緩く首へ巻いた。純毛の襟巻きは保温に優れ、間近の馨りは安らぎを運ぶ。「髪を取られちゃ寒みィもんだな」「それは悪い事をした」髪の中で暖を取る手はその儘に、広げた翼で覆いながら奴の肩を引き寄せる。翼の中も温かいと笑う豹王が、仔猫のように頬を擦り寄せた。


【ふとんの抜け殻】
少し寝過ごしてしまったようだ。共に夜を過ごした奴の姿は傍に無く、這い出した儘の布団の抜け殻が残っている。しかし霊圧は存外近い場所だ。「温けえもんが欲しくなってな」すっきりと晴れた朝の空のように奴が笑う。手渡された紅茶に口を付けると、春を先取りした梅の香が緩やかに目覚めを促した。


【肩にもたれかかる】
奴の指先が巧妙に体内を暴く。身動きが取れぬほど抱き締められていないにも拘らず、奥から髄の感覚を捉えられてしまっては、その肩に凭れ掛かるより他ない。喘ぐばかりの唇へ、奴が噛み付くような口付けを寄越す。脳まで蕩けそうな最中にゆっくりと目蓋を開けば、間近の青空は陽炎に大きく揺れていた。


【つがいのスズメ】
果ての無い虚圏は、少し歩いただけで取り残されたような錯覚に陥る。「此処も冷えるな」翼を窄めて羽毛に空気を含ませると、豹の尾に身を引き寄せられた。「雀は団子になるらしいぜ」羽毛を見ながら擦り寄る奴の尖った耳は冬毛を蓄えて柔らかい。孤立したこの場所は、番の雀に誂え向きのオアシスだ。


【はじける泡】
奴の血色の良い肌に真っ白な泡はよく映える。その胸板へ背を預け、綿雲の湯船に身を沈めながら、とろりと流れるコントラストを眺めた。「あんまり沈むんじゃねえぞ、混ざっちまいそうだ」「その心配は無用だ」手遊びで作った風船をぱちんと弾く。確かな両脚を絡めると、向かい合わせた唇にキスをした。
ほぼ日刊グリウルSS*2022/01

2022/02/01

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