ほぼ日刊グリウルSS*2022/01
*R18要素有りお題をお借りし(お題.com様より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの1月まとめです
side*6
【シュガートースト】
奴が太陽の髪色をした女から教わったというシュガートーストは、白と黒の砂糖の上から蜂蜜をかけて食う、寝起きの舌が病みつきになる朝食だ。その一切れを摘んで差し出した白い指ごと頬張ると、奴の身まで砂糖で出来ているような錯覚に陥る。「まるで子供だな」穏やかに緩む唇が、頬のパン屑を拭った。
【花は散らない】
その花は枯れるまで散る事も地に落ちる事も無いという。豪奢な冠にも見える篝火の花群は、心持ち悪くないものだ。「シクラメンは王宮にも飾られるそうだ」奴の指先が赤い花弁を一つ摘むと、まるで真っ白な蝋燭に火が灯るようである。さて、王は気分が良い。愛する妃の手を取り、花と共に口付けをした。
【二の腕の筋肉】
第二階層へ達した奴の身体は極限まで絞られているが、肩から二の腕にかけての筋肉は秘めた力が目に見えるようだ。しかし槍を扱うその腕も、口付けには弱いらしい。唇で吸えば収縮し、柔く牙を立てると胸筋まで跳ねる。体毛の境目を爪で梳く間に見留めた胸の性感帯は、色付く果実のように俺を誘惑した。
【柔らかなシーツ】
湯上がりに大判のタオルを緩く羽織った儘、二人戯れ合いながら寝台へ転がり込んだ。口付けた白磁の肌は温かく、少し水分の残る黒髪は艶々と輝いて見える。「もう汚してしまうのか?」揶揄う口振りに止める意図は感じられない。「また湯を浴びれば良いだろ」柔らかなシーツが二人を隠すまで、あと少し。
【指の戯れ】
第三関節から変化する黒い爪は、全て鋼皮が更に硬化して出来ているようだが、曲がる方向には影響しない。向きを同じくして、甲から自身の掌を重ねた。指の腹で観察する内に気が付いたことがある。関節が上がる毎に、感覚は表皮に近付いていくらしい。窄まる翼の中で、俯いてしまった唇をそっと捉えた。
【熱い唇】
始まりの口付けは甘過ぎる位が丁度良い。奴の白い唇は重ねる毎に熱を湛える。面映ゆく口内へ隠れてしまった舌を緩やかに吸い、唾液と共に絡めた音さえも、その身を溶かすに余りある。ゆっくりと姿を現した碧の瞳はきらきらと揺れる水面のようだ。零れる一雫すら逃すまいと、朱を刷いた眦に唇を寄せた。
【悪魔の囁き】
夜空から舞い降りた悪魔は幻覚ではない。不意に耳を擽った甘美な囁きが劣情を暴走させ、気付けば柔らかな砂へ押し付けた痩身を見下ろしていた。二人の霊圧のみが満ちるこの場所は、宛ら天地さえ我が物にした広大な城である。金の瞳が魔法をかけるように輝くと、きつく掴まれた心は既に奴だけのものだ。
【触れたくなる髪】
奴の黒髪は肌触りが良い。小柄な身体を囲い込み、まず外へ跳ねた癖毛を撫でる。白い耳が見えると、次はその際から毛先に向かって手櫛を引いた。「気に入ったのなら帰刃してやろうか?」「いや、今はいい」仮面の縁で弛む毛束を梳きながら答える。髪の長さと仮面の形による楽しみは、それぞれ違うのだ。
【水色キャンディー】
口へ放り込んだ水色のキャンディーはソーダ味である。ふと感じた視線を辿ると、碧の瞳が興味深げに様子を窺っていた。「てめえも欲しいのか?」「ああ、お前の眼のようで美味そうだ」「俺のは抉り取んなよ」白い手を引き、おどけながら唇を奪う。共有する発泡感は、臓器を喰らうより手軽な旨味成分だ。
【迸る劣情】
部屋をいくら暖めても僅かな寒さを追い出せない、やけに冷える今日のような日は身を寄せ合うに限る。寝台へ引き摺り込んだ奴の白い肌が熱を逃すなど以ての外だ。口付けは重ねるほど筋肉の強張りを解す。肌を擦り合わせるほど体温は一つになる。迸る劣情が二人を繋ぐ頃、漸く全ての隙間風が遮断された。
(1月20日、大寒)
【耳への口付け】
奴は帰刃で変化したこの耳を甚く気に入っているらしい。尖った先端に口付けた薄い唇は、繰り返し毛並みを撫でて遊ぶ。毛繕いをされているような心地良さでうとうとと下がってきた目蓋に気が付いたのだろう。抱かれていた頭はいつの間にか奴の膝にあり、碧の木陰で髪を梳く指先が穏やかな夢路へ誘った。
【甘いささやき】
散った種を残さず飲み干し、白磁の脚の奥から顔を上げた。零れ落ちそうな碧の水面が現れると、眦の一雫さえ愛おしく舌先で掬う。その時、耳を炙る吐息と共に奴が囁いた。「俺にもさせろ」これ程までに甘い命令があろうか。胸を射抜かれ思わず動きを止めた隙を突き、色付いた唇が昂る源へ口付けをした。
【黒髪から滴り落ちる水滴】
奴は稀にルーズな一面を見せることがある。仮面が頭部を半分覆っているからだろうか。癖の少ない直毛だからだろうか。湯上がりに黒髪から滴り落ちる水滴を軽く拭き取っただけの状態は目に余る。「手間ではないのか?」「ヘアスタイルは大事だろうが」首を傾げた奴を捕まえて、ドライヤーを取り出した。
【腕枕】
眠る時さえ触れていたいと思うばかりに、横になってもその身を懐中へ囲い込む。二の腕にかかる頭部の重みは心地良く、傍に在る確かな安心感を刻み付けるようだ。ふと、身動いだ黒髪が筋肉を擽り、奴が眠ったまま肩口へ顔を埋める。丸くなった仔猫のような愛らしい仕草で、抱き締める腕に力が籠もった。
【艶めかしい瞳】
目を付けた獲物に忍び寄る足取りはゆっくりと、柔らかく仕立てた肉はしっとりと、そうして奴の身体は研いだ切先を受け止める。反った白い喉に牙は立てない。代わりの口付けで喉仏を転がせば、その唇の箍を外すことが可能だ。耳から蕩けてしまいそうな声が俺の名を呼び、貪欲に乞う碧が艶かしく煌いた。
ほぼ日刊グリウルSS*2022/01
2022/02/01