ほぼ日刊グリウルSS*2022/02
*R18要素有りお題をお借りし(https://shindanmaker.com/200050より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの2月まとめです
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【内緒で まとわりつく】
僅かな麝香を襟に吹き掛けて来たことを、奴には明かしていない。他より鼻が利くのだろう。異変を探ろうと纏わり付く足取りは木天蓼を噛んだ猫のようだ。空色の襟足に腕を絡め、種明かしに香りの元へ誘う。「何てもん仕込んで来やがる」項を撫でる吐息は肉食獣に変わり、色欲の牙が喉笛に喰らい付いた。
【優しく 足を撫でる】
ブーツを放り投げた奴の手は、いざ俺の足を撫でるとなると、途端に優しい動きへ変わる。始まりは指先で爪の感触を確かめる所から。次に黒がその唇に吸い込まれると、見え隠れする赤い舌が指の隙間を埋めていく。末端の神経は過敏に、青空が迫るにつれ我が身を支えることさえ儘ならなくなってしまった。
【いたずらに 踏む】
背後からピタリとついて来る奴の足がいたずらに影を踏むと、逆光の月明かりでひとときの長身を得られるようだ。「鬼のつもりなら俺はもう負けているが」「いや、影が先に触れちまうのが気に食わねえ」「何だ、そんなことか」振り返って背伸びをする。視界の端で形を変える影もまた、唇を重ねていた。
【皆が見ている中で 相手の頬をなでる】
会議の時刻が迫るなか第六宮へ迎えに赴くと何やら騒々しい。頭を垂れたウンデシーモによれば、奴は呑み潰れた昨晩から気持ち良く眠った儘らしい。起こそうと躍起になる従属官達を鎮め、撫でるように捉えた左頬から指先程の霊圧を叩き込む。「藍染様よりマシだろう」稲妻を見た青空が、漸く飛び起きた。
【冗談っぽく 後ろから抱きつく】
その後ろ姿は青空が隠れがちである。奴は不機嫌そうに背を丸め、肩で風を切って歩く。反して、ちょっかいをかけたくなるような微かな哀愁も見て取れるのが面白い所だ。擽られた悪戯心の儘に、霊圧を抑えながら背後から抱きつく。飛び上がる筋肉と掌の下で跳ねた鼓動が、不機嫌とは程遠いことを示した。
【いじわるに 指をはむ】
意地悪く笑む唇が俺の指を食む。唾液を拭わず音を立てて吸う様は口淫そのものである。右頬の牙が僅かに開くと、舌は指の付け根へ侵食を始めた。直接と紛うばかりの前戯が脳に霞をかけ、髄は甘く痺れてしまいそうだ。牙が細い糸を引く。悪戯にかまける余裕を失くした唇により、息苦しい詰襟が解かれた。
【照れながら 服の中をまさぐる】
その義骸と冬らしい洋服は、明日の催しの為に造られたものだ。「いつもより隙が無え」「皺にするのはまだ早いぞ」物珍しさ故の下心だろう。試着を終えるや否や上着の中をまさぐり始めた手を抓る。「チョコレートが先だ」愛の告白のように囁くと、銀で飾られた指が止まり、照れ臭そうに俺を抱き締めた。
(2月13日、第1回ベストバウト投票結果の扉絵衣装とバレンタイン前日)
【さりげなく 指輪をはめる】
二人きりの廃墟で作ったままごとの指輪は、意味を見出した特別なものである。月光に翳して眺めていると、奴がさりげなく隣へ腰掛けた。開かれた掌には、対になる一回り大きな指輪が乗っている。二度目の交換に笑う今日は何の変哲も無い日だ。しかし、貫かれた胸へ温かく満ちる特別な感情に嘘は無い。
(12月のSS【結婚式】の指輪)
【真顔で 匂いを嗅ぐ】
奴は匂い一つで喜怒哀楽が顔に出る。フレーメン反応も影が薄れるほどの百面相は見ていて飽きない。「てめえは何嗅いでも真顔だよな」何処からか仕入れて来た香水を眺めながら、奴が不服そうに呟く。「強烈なら背けたくなるかも知れんな」空色の瞳が名案とばかりに輝くと、混ぜる器を探しに飛び出した。
【内緒で 指を口に突っ込む】
口封じをする様に無骨な指が口腔へ侵入した。うねる指先は体内を柔らかく解す動作によく似ている。背を預けた厚い胸板から響く鼓動が熱を助長し、誘発される唾液が絡む程に脱出は困難を極めた。それでも僅かな物足りなさに青空を見上げる。噤んでいた色欲は同じで、待ち兼ねた奴の唇によって奪われた。
【いちゃつきながら 蹴る】
地上に似合う獣の脚が少々羨ましくなったのだ。敢えて翼を畳み、長い衣の裾を蹴りながら蒼い長髪が靡く背を追った。「飛んだ方が早いんじゃねえのか?」「地上もたまには良いものだろう」ピタリと肩へ寄り添い手を繋ぐと、豹の尾が機嫌良く揺れる。握り返した奴の掌は、強く離れ難い温もりを寄越した。
【人目を忍んで 身体を密着】
会議を終えると、人目を忍んで帰路のルートを変え、尖らせた探査神経で奴と鉢合わせるよう手筈を整える。思惑通り、対向から“偶然”俺の姿を見留めた空色の瞳が輝き、気を良くした両腕が瞬く間に身体を密着させた。急がば回れとはよく言ったものだ。足取りを狙った事は暫し内密に、その胸へ身を委ねた。
【照れながら 耳を甘噛み】
頬に掛かる髪を改めて掻き上げられると、予想だにせぬ面映ゆさで目を閉じた。温かい唇が、外気に晒された耳を美味そうに食んでいる。耳を見られるのはこの時ばかりだと囁く奴は、まるで宝を探り当てたかのような声色だ。鼓膜を炙る吐息は身体の自由を奪い、牙が緩やかに擽る動作にさえ性感を覚えた。
【からかって 身体を押し付ける】
戯れ合う動作は次第に情欲の熱を纏い始める。「春はまだ先だが」そう揶揄いながらも、人の姿を持つ俺達にそんなものは世迷言だ。「こちとらいつでも春の気分だぜ」押し付けられた下肢は袴が解かれるのを今か今かと待っている。抜ける様な青空に映り込んだ色は、我が事ながら暖かな萌葱によく似ていた。
ほぼ日刊グリウルSS*2022/02
2022/03/01