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ほぼ日刊グリウルSS*2022/03

*R18要素有り
お題をお借りし(https://shindanmaker.com/200050より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの3月まとめです

side*4


【楽しそうに 肩を抱き寄せる】
虚夜宮の青空に昇る陽は心無しか高い。奴が同じ色の髪を揺らしながら、薄氷を上機嫌の踵で小気味良くかち割った。「てめえもやってみろよ」肩を抱き寄せられると、崩れた体勢から踏み出した爪先で氷は砕け散り、瞬時に水へと変わる。弾みに目に入った軒下の雪だるまは、今では仔犬の丈まで縮んでいた。


【キレ気味に いたずらする】
統括官の叱言を受けてから、奴の荒んだ足取りは床を壊しかねない勢いだ。さて、手元には丁度プリメーラの少女が雛祭りだと云って渡してきた金平糖がある。悪戯を仕掛ける様に、肩を叩いて振り返った口へ押し込んだ。「壊すなら砂糖に限るぞ」続けて若葉色の一粒を差し出すと、への字の唇が漸く緩んだ。
(3月3日 雛祭り)


【誘うように 靴を履かせる】
現世での任務中、小休止に訪れた海はまだ冷たかった。誘うように寄せる波を裸足で蹴る奴の後ろ姿は、晴天の水面によく似合う。「流石に水ん中は寒みィか」肩を竦ませながらも、眦の仮面紋はどこか楽しげである。「だから脱ぐなと言っただろう」冷えた足を掌で軽く拭い、砂を払ったブーツへ押し込んだ。


【わざとらしく 肩にもたれかかる】
春の兆しは暦の通りだが、途切れ途切れの雪が舞い続けていた。そんな凍返る夜には暖かい場所へ向かうに限る。奴の広い肩に凭れかかり、立てた襟に態とらしく頬を擦り寄せた。俺自身が思うよりずっと冷えていたのだろう。奴の身を震えさせてしまったが、すぐさま囲い込まれた懐は心地良く眠気を誘った。


【内緒で ポッキーゲーム】
奴が片手間に齧っている菓子は、一度手をつけると止められなくなる中毒性を秘めている。誘惑は菓子か、それとも唇か。八割を覆うチョコレートが無くなってしまう前に、芳ばしい先端を前歯で捉える。不意に距離を詰めたことで動揺する空色の瞳と視線を合わせた儘、砕きながら重ねた唇は甘く後を引いた。


【いじわるに 耳にキス】
意地悪な牙は耳を穿つことなく、時に骨を噛みながら遊ぶ獣のように、そうして刷り込まれた感覚は強力だ。「その牙だけで達してしまいそうだ」蒼い獣の耳に口付けながら囁くと、途端に逆立つ毛並みから奴の興奮がありありと見て取れる。観念した牙と入れ替わりに重ねられた唇は、勇み足に逆上せていた。


【内緒で 目隠し】
解いた帯を用いて空色の眼を隠し、その唇に触れさせた身体の部位を順に問う。人差し指、膝、角の縁、鎖骨。「もっと良い場所無えのかよ」幾度となくこの身を撫でた唇は、肥えてなお衰えぬ飢えを持ち合わせている。お預けもそろそろ限界だ。戯れは仕舞いと目隠しを取り払うと、食前酒の唇を差し出した。


【余裕なさげに 羽交い締め】
「グリムジョーはぼた餅を作り直すように」「一個食っただけじゃねえか!」統括感が指導する間、不服のあまり頭に血が上ったセスタを羽交い締めに取り押さえる。「落ち着け。腕がピョンと鳴るぞ」「それどっかで、痛っでェ!」更なる叱責を受けぬ為にも骨が軋む間際まで腕を引き、言い訳の口を封じた。
(3月13日 春彼岸に向けて)


【いたずらに 口元を拭う】
口付けの最中に触れる奴の舌は、唾液の一滴も刮ぎ取るようだ。それでいて溶けぬザラメはいつまでも甘く残り、思わず口元を舐めて拭う。「お前の口付けは美味だ」間近の唇を追いかけ徒に食むと、それは嬉々として牙を見せた。ざらついた感覚が再び俺の唇を捉え、飽くことのない時間が繰り返されるのだ。


【何気なく 膝に乗せる】
何気なく差し出された手を取ると、刹那の暗転を挟んだ視界は膝の上から再開する。僅かな隙間も惜しいのか、一回り広い胡座が狭められた。ぬいぐるみを離さぬ子供の様に俺を抱く腕の中で、預けた背は奴の体温で満たされていく。更なる寛ぎを求め頭部を擦り寄せながら青空を仰げば、そこで漸く一揃いだ。


【強引に ハグ】
強引に抱き締められても、鋭い爪が背を引き裂く事はない。「てめえの方が硬えからだろ」奴はそう答えるが、美しい獣は得てして無駄を許さぬものだ。滑らかな鎧を一枚ずつ数えながら、長髪に潜り込ませた掌を回す。それを密やかな合図に、地を蹴った豹の脚が邪魔の入らぬ天蓋の裏まで共に連れ行くのだ。


【丁寧に 布団から引きずり出す】
「あと五分」はみ出した空色の毛先からありがちな台詞が漏れた。額まで掛布を上げ、五分では到底起きそうにない。会議の時間が迫るなか何度布団から引きずり出したかしれないが、今日も掛布から丁寧に耳だけを探り当てて囁く。「これでは目覚めの口付けもやれんな」そろりと現れた青空に漸くまみえた。


【ふざけて 傷口をえぐる】
俺達の身体を貫く孔は、綺麗な傷痕のように鋼皮で覆われていながら体内に近い場所である。始まりは背面からこの身を抱いた掌が、ふざけて胸の内側を抉った時だ。思わず零れた自らの声は閨事によく似て、物理的な魂の充足感で力が抜けてしまった。奴が嬉々として触れるようになったのはそれからである。


【軽く すがりつく】
袴の脇あきから侵入した下心の掌が蠢くと、思わず目前の厚い胸板に縋りついた。背は軽く抱えられているだけであるが、仕立て上げられたこの身は端から抜け出す選択肢を抹消している。興奮を纏う指先が更なる熱を求め深層への道を伝う。腰が砕けてしまう前に、背伸びをした唇で閨へと誘う耳打ちをした。


【飄々と 間接キス】
甘い炭酸がパチパチと弾けている。半端な気温の為か、些か漫然とした脳に味覚から刺激を与える事にしたのだ。一口、強い炭酸が細胞を叩き起こす。二口、喉がスッと開く。それまで様子を窺っていた空色の瞳が輝き、泡と重なった時だ。飄々と割り込んだ手がグラスを掠め取り、一息に飲み干してしまった。
(3月28日 三ツ矢サイダーの日)


【丁寧に 壁ドン】
鋭い眼光の獣は僅かな小型の虚さえも一睨みで追い払った。壁と胴の間、腕の檻の中で厳重に匿われたまま見上げると、冬空がからりと晴れていく。漸く獲物にありついたとばかりに寄越した口付けは丁寧に味を確かめるようだ。「次はどこを喰う?」冗談めかして誘ってやれば、通過儀礼の牙が喉笛を擽った。
ほぼ日刊グリウルSS*2022/03

2022/04/01

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