ほぼ日刊グリウルSS*2022/03
*R18要素有りお題をお借りし(https://shindanmaker.com/200050より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの3月まとめです
side*6
【丁寧に 服をめくる】
右脇に入った白い指が上着を捲り、丁寧に階級をなぞる。擽ったさに紛れ込む感覚は、剥奪の痕は消え失せているにも拘らず傷痕をそっと撫でられている様に切なく温かい。「俺ばかりじゃ不公平ってもんだ」余計な感情を振り払うべく目前の左胸へ柔く触れる。奴が怯んだ隙を突き、詰襟の引手に牙を立てた。
【いじわるに 服を剥ぎ取る】
「意地の悪いことだ」剥ぎ取られた衣服の仕返しに俺の上着を落としながら、奴が満更でもない様子で云う。同時に強い力で押し返されると、一糸纏わぬ真っ白な身体が伸し掛かり、蠱惑的な指先が帯を解いた。互いの劣情は揃えた兜が物語る。腰を強く擦り付けてやれば、過敏な身体は瞬く間にこの腕の中だ。
【ちゃっかり 髪をいじる】
帰刃で伸びた俺の髪が絡んでいるからと、奴が正面から毛束を丸ごと抱え込む。難なく滑る細い指はつげ櫛のようだ。その様子を眺めるのも愛おしいが、悪戯はまた別である。奴の視界が狭まっている内に、袴の裾から尾をちゃっかりと差し入れる。腿を先端で擽ると、解けた髪が強張った手櫛から滑り落ちた。
【丁寧に 服を脱がす】
きっちりと留められた衣服を解く瞬間は楽しみの一つである。「随分と丁寧だ」布から肌へ、肌から布へ。変化し続ける反応に夢中で、白い唇が艶っぽく微笑うまで気付かなかった。「引き千切られてえ訳じゃねえだろ?」「それもそうだ」全て脱がさない手も乙だと閃くと、緩めた帯はその儘に掌を忍ばせた。
【遊び半分に 舐める】
夜空から舞い降りた魔物を受け止めると、遊び半分の翼に包み込まれてしまった。負けじと尾を絡め、翼の骨を確かめるように指でなぞる。ふと鉤爪を柔く掻いた時、根元の羽毛がふわりと膨らんだ。その作りは手の指と同じものである。新たな切っ掛けによる高揚感は味見の舌へ注がれ、真っ先に唇を寄せた。
【強引に 吸い付く】
二月と対になる催しに託けて、甘い菓子を揃えた茶会を開く。バニラの花の色をした手が茶葉へ湯を注ぐと、混ぜ込まれた果実は忽ち香り出した。幸せな夢に溺れるような浮遊感で、茶菓子を含む口元が疎かになっていたらしい。奴の唇が口角へ吸い付いた時、割れたバウムクーヘンの一層は既に奪われていた。
(3月14日 ホワイトデー)
【ごまかす様に ふとももにキス】
長い衣がひらひらと揺れるとき、その脚元から愛でたい衝動に駆られ爪先を捉えた。体幹へ近付くほど、ブーツは体毛へ、体毛は鋼皮へと変化する。足首の羽毛を擽りながら、食む唇は白磁の太腿まで達した。緩やかに兆した色欲を誤魔化すように裾を引き下げる仕草が愛らしい。今夜最初の印は内腿と決めた。
【さりげなく 背中を叩く】
緩やかに上がっていく気温はしばしば眠気を誘う。睡魔と闘う最中、白い手がさりげなくティーカップを差し出した。甘い薔薇の香と茶葉の渋味で、意識は忽ち夢から現へ引き戻される。「まさか春眠を虚圏で見る日が来るとはな」はっと伸ばした背を軽く叩きながら、奴が窓辺の小鳥のようにキスを寄越した。
【ふざけて 両手で顔を包み込む】
正面から覆い被さり、その体内へ進入する。血を通わせた陶磁器の頬を両手で包み込むと、碧の水面に今にも吸い込まれそうだ。「割れやしねえだろうな?」ふざけて額をコツンと合わせれば、返礼の口付けが先を乞う。「お前に俺が壊せるか?」挑発さえも甘く髄を震わせ、劣情に膨れた切先で一息に抉った。
【訳も分からず 体当たり】
「あたしもいるから大丈夫!」太陽の髪色をした女に、訳も分からずクアトロ共々派手な垂幕の箱へ押し込まれた。やがてカウントダウンに急かされるまま体当たりに挑む事となる。「女、落書きとはどうするんだ?」早速適応力を示した奴の手が、小さな写真に映る俺の頭にパステルブルーの猫耳を生やした。
((3月21日 プリの日)
【イラ立ちながら 抱きしめて寝る】
些細な事で苛立ちを覚える性質は司る死の形にも起因するのだろう。他所で蓄えたそれを持ち込むまいと思っていたが、碧の瞳は容易く見透かしてしまう。ひんやりとした奴の掌が変拍子の胸を鎮め、激情は虚無の深淵へ消えていく。痩身を抱き締めると痞えは剥がれ落ち、やがて穏やかな眠りに誘い込まれた。
【嬉しげに ラブつなぎ】
白い手が、捲り上げた上着の袖を引く。肌を重ねる最中でも、時に面映ゆく口に出すことさえ憚られるのだろう。快く意思を解した印に、噤んだ儘の唇へキスをしながら掌を重ねる。向かい合わせの体温がしっとりと混ざってしまいそうだ。指を絡めることで合致する対の二枚貝は、僅かな空気まで追い出した。
【何気なく 唇をなぞる】
柔軟運動で熱が巡るように、奴の白い唇も隠された血の気を引き出すことが可能だ。それは口付け前に感触を楽しもうと、何気なく指先で揉んだのが始まりだった。人体に準えて変化した鋼皮は癖になる弾力を併せ持つ。「それほど良いものか?」淡い桜が滲む頃、焦れた唇に指をぱくりと捉えられてしまった。
【楽しそうに 口元を拭う】
濡れた口元を舌で拭う。目が覚めるような強い炭酸と共に、奴と同じグラスで飲み干した味は口付けの余韻に似ていた。「もう一杯くらい入れてやったものを」「てめえの手にあるもんが魅力的でな」駄々をこねる子供のようだと云う奴の表情はどこか楽しそうである。更なる甘味を求め、白砂糖の唇を奪った。
(4目線【飄々と 間接キス】三ツ矢サイダーの日の続き)
【公衆の面前で 押し倒す】
広間ではしゃぐ仔犬に気を取られていた。それを追うディエスと衝突し、不覚にも体勢を崩してしまう。「てめえ幅考えろ!」「悪りい悪りい」一発殴ってやろうと身体を起こした時だ。「俺に何か言う事は無いのか」真下にはクアトロ、周りは騒ついている。血が冷ややかに引いていくのをはっきりと感じた。
ほぼ日刊グリウルSS*2022/03
2022/04/01