ほぼ日刊グリウルSS*2022/04
*R18要素有りお題をお借りし(https://shindanmaker.com/484726より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの4月まとめです
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【内股に与えるキス】
黒い毛並みを食みながら奴が愛でるのは俺の脚だ。甘く擽る牙が少しずつ体幹へ近づいていく。ふと進行を止めた唇が焦点を当てたのは右腿の内側である。「痕は見えぬ筈だが」「全部見えりゃあ良いってもんじゃねえ」熱を帯びた息を機嫌良く吹きかけられると、体毛に隠れた印は見事に神経と直結していた。
【背骨におあそびのキス】
丈の短い上着を肩に掛けた儘、奴が手団扇で戻って来た。湯上がりの広い背に触れると、よく温まった筋肉が快く熱を分け与える。ふと思い立ち、空色の襟足へ口付けをした。背骨の窪みを遊ぶように啄んでやれば、ひんやりとして気持ちが良いと奴が笑う。湯冷めと無縁の季節は、もうすぐそこまで来ている。
【乳首に甘いキス】
狙いを定めた唇は左胸の階級を奪うように口付けをした。心臓まで握られる心地だが、奴が喰らうのは眼に見えぬものだ。刻まれた墨に沿って左から右、次に上から下へ一筆書きの唇が止まると、焦らされたその場所は奴の思惑通りに熟れてしまう。熱い舌が触れる頃、それは既に芯から蕩けるほど痺れていた。
【腰にさっぱりしたキス】
うつ伏せに寝転がった奴の、斜に刻まれた階級と孔が見え隠れする腰は魅惑的だ。宛ら蜂鳥の気分で腸骨の膨らみを柔く啄んで悪戯をすると、筋肉は跳ね上がり数字が笑う。味を占めて次は甘噛みでもしてやろうと考えていた時だ。捕虫葉の掌がこの身を拘束し、仕返しの口付けにまんまと溶かされてしまった。
【鼻先にハァハァしたキス】
麗かな陽気は心身の活動を促すものである。俄に浮き足立つ獣は、発情期のように身体を擦り寄せて来た。「フェロモンなど持たんぞ」「暖けえ日は動くに限るだろ」色欲に濡れた吐息が鼻先を炙る。取って付けた理由でも、魔法がかかる季節だ。青い春霞の視線を捉え、誘惑に鳴く猫の要領で奴の名を呼んだ。
【指先に冷たいキス】
レモンを絞った冷たい紅茶を飲み干した時だ。唇に残っていたであろう僅かな雫を、空色の瞳は見逃さなかった。温かな親指が物欲しそうに拭うものだから、戯れに口内へ誘い込み舌を絡めてやる。「冷てえ!」奴が声を上げたが、存外嬉しそうである。気付けばレモンの香は馴染みの味に塗り替えられていた。
【喉仏に深いキス】
奴が喉笛へ好んで触れるように、同じ場所に真似事の口付けをした。仕留めた筈の獲物が息を吹き返した気分だろうか。それとも俺の獲物として身を任せるだろうか。結果は何方も誤りだった。奴はさも嬉しそうに犬歯をギラつかせ、返礼の唇が揃いの印を残す。俺達の関係は、疾うに序列の範疇ではないのだ。
【ふくらはぎに濃厚なキス】
寝台へ上がると共にブーツを脱ぐ。奴はそれが貴重であると機嫌良く口笛を吹きながら、俺の袴を裾から捲り上げた。「何時も見ているのにか?」「常に見える訳じゃねえだろ」温かな掌が脹脛を撫でる延長線上に口付けを寄越す。骨付き肉を味わうような甘噛みは髄まで響き、譲り受けた以上の発熱を促した。
【舌先に甘いキス】
来たる夏日の為に奴が取り寄せたのは、桜の葉が香るソフトクリームだ。味見をする様を眺めているだけで、晴天の花見に来た心地である。ふと頬に散った花弁を唇で捉えるが、それは儚く溶けてしまう。「花ならまだあるぜ」返礼の舌先から共有する甘味は、花弁が水面を埋め尽くすように柔らかく広がった。
【まぶたにかわいいキス】
奴の寝相は様々だが、掛布から外れてしまうと猫のように丸くなる。少し冷えたのだろう。保温の為か呼吸まですやすやと静かである。大柄な愛嬌に見入っていたが、そろそろ酷というものだ。目蓋に軽くキスを送り、掛布を二重に増やしてやる。次の寝相が大の字になり得る可能性を、不覚にも失念していた。
【おなかに優しいキス】
体内で遊ぶ奴の指先は巧妙に神経を撫でる。牙の隙間に搦め捕られながら散らした白い羽さえ喰らい尽くされてしまった。舌舐めずりをした獣が至極美味そうに喉を鳴らすと、これから手を付ける主菜の下腹へ祈るように口付けを寄越す。優しい唇は却って期待を促し、待ちきれぬ両手で空色の項を引き寄せた。
【髪の先に長いキス】
「これがあるから虚夜宮は面倒臭え」空を仰いだ奴の嗅覚が、柔らかな催花雨の気配を読み取った。帰路を急ぐ後ろ姿は青空であるのに、実に愉快な天候だ。しっとりと濡れたその襟足は狐の嫁入りに似て、契るような心地で背伸びの口付けをする。引き止めた上着の端まで伝わる動揺が、悪戯心に火をつけた。
【素肌にじれったいキス】
元来寒暑さえ存在しない虚圏に持ち込むのも野暮な話だが、奴は夏生まれにしては暑がりだ。その割に蒸し風呂を好むと来ればますます不可解である。妙な思考が巡る脳は逆上せる間際の警告だ。汗が流れる肌へ焦らす様に口付け、気怠さに任せて寄り掛かる。青空がはっと開かれ、慌ててこの身を抱き上げた。
(4月26日 よい風呂の日)
【発情した体に恋心を伝えるキス】
熱に浮かされた吐息が喉を炙る。牙は留金を捉え、一息に詰襟を解いた。孔を塞ぐ唇も背を抱く掌も狂おしい情欲を纏い、火傷に見舞われてしまいそうだ。「そう急くな」飢えた牙の仮面ごと頬を両手で包む。「肚が減って仕方ねえ」「消化不良は避けたいだろう?」食前酒の口付けは甘く染み渡るものが良い。
【足の付け根に息苦しくなるようなキス】
獣へ近付いた奴の舌は、黒い体毛を梳く度にザラザラと心地良い。鉤爪から足首へ、迫る青空を仰ぐ心地で手を伸ばした。膝上で撫でてやると、指に沿って倒れる耳が愛らしい。しかし油断は仔猫を豹変させる。脚の付け根から這い上がる口付けは揚々と急所を探り当て、酸欠に似た性感が四肢の自由を奪った。
ほぼ日刊グリウルSS*2022/04
2022/05/01