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ほぼ日刊グリウルSS*2022/04

*R18要素有り
お題をお借りし(https://shindanmaker.com/484726より)1日1本ずつピクログに上げていた140字SSの4月まとめです

side*6


【涙に短いキス】
戦慄く背を抱き締めながら庭の奥へ足を踏み入れた。項の上で跳ねる白魚は、俺だけが知り得る秘境へ辿り着いたことを示す。ゆっくりと歩く余裕は次第に失われ、気が付けば駆け足へと変わっていた。雫がひとつ、ふたつ、膨らみ始める。滅多に手に入らぬ貴重な露を、尖らせた唇で余すことなく吸い上げた。


【初々しい頬に濃厚なキス】
階級に見合う鋼皮の硬さと再生能力により擦り傷一つ許さない白磁の頬は、いつまでも初々しく見える。印が残らないのは口惜しいが、反して新雪を踏む楽しみがあるのも事実だ。茶器にでも触れるように両の掌を滑らせ、強く吸い上げる。眼をぎゅっと瞑る奴の仕草に、初々しい儘の恋心を掴まれてしまった。


【感じすぎた躯に甘やかすキス】
肌を緩やかに密着させると、突き刺した儘の切先は深く確実に沈んでいく。白く波打つ胸は凪ぐことなく、碧の水面いっぱいに空を映し込んだ。その心地良い暖流に揺蕩いながら、魚のふりをした唇で波を柔く突いて遊ぶ。腕から零れ落ちぬようきつく抱き締めれば、プライベートビーチを手にしたも同然だ。


【てのひらに深いキス】
砂漠で見る水は、たとえ後から持ち込まれたものであっても等しくオアシスになり得る。白磁器の掌が掬い上げると、それは清らかな雪解け水と見紛う程だ。瞬く間に空にした器さえ、解かれることを惜しんで口付けをする。「水は専門外だが」奴が微笑いながら、擦り寄せた唇へ応えるように俺の頬を包んだ。


【胸に事後のキス】
繋いでいた身体を元へ切り離す時、仄かな寂寥感を埋めるように痩身を抱き締めた。その胸の中心を口付けで塞ぐと、一番近い場所にある鼓動がゆっくりと鎮まっていく。ふと白魚の手が俺の腰に回り、貫かれた腹の奥を温かく堰き止めた。眠りに落ちる間際まで唇を重ねれば、余韻は揃いの夢へと誘うだろう。


【涙に服従のキス】
白磁の頬には涙と紛うばかりの仮面紋が染み付いている。斬魄刀へ封じた力をその身に帰すと、それは重篤な欠落を物語るように濃く滲んでいくのだ。肌を重ねる最中、蜂蜜の瞳から零れ落ちる雫を仮面紋ごと口付けで拭う。肯定を読み取った眼は柔らかく細められ、仄かに色付いた唇がそっと俺の眦へ触れた。


【こめかみに気が遠くなるキス】
作り物だと解っていても、急激な寒暖差は流石に参ってしまう。「一発殴ってくんねえ?」「首が飛んでも構わんのならな」気怠さのあまり頓狂な要求を口走ったが、全て見透かしたクアトロは頭蓋を軽く叩くだけに留める。「少し休むと良い」奴の唇がこめかみを冷やすと、意識は穏やかな眩暈の中へ沈んだ。


【内股に欲しがるキス】
日頃から動作を最小限に抑えた唇は、色欲の塊を咥え込んでなお艶やかな品を保つ。留金を解いただけの上衣が却って背徳感を掻き立てた。どれほど白で汚しても、奴はやはり白い儘だ。唇を拭ってやると、それは美しく色付いて余韻に霞む視界を払う。内腿へ施された誘惑のキスが、暴発寸前の劣情を許した。


【顎にあやすようなキス】
緩やかに侵食を進めても、その瞬間だけは白い喉が悩ましげに晒される。呼吸を促す口付けは胸を貫く孔から、鼓動に耳を傾け、浮いた鎖骨を食み、喉仏を擽った。最後に顎をあやすように啄むと、果実の唇は開かれる。口移しの霊子が行き渡る頃、筋肉の強張りは解れ、その身は俺だけの為に形を変えるのだ。


【つま先に健康的なキス】
獣の足を手に取り、その白い指先が肉球を揉む。ひんやりとした感覚に柔らかな指圧が合わさると、えも言われぬ心地良さだ。ふにゃふにゃと倒れそうになる身体を繋ぎ止め、向かいの爪先へ返礼のキスをした。両手で包んだそれも経穴は同じだろう。「掌にまで肉球があるようだ」奴が穏やかに頬を緩ませた。


【冷たい唇に甘噛みめいたキス】
口付けを繰り返す毎に、白は暖色を滲ませながら柔らかく熟れていく。皮下に体温を隠した唇は美味で、ジャスミンの花を食んでいるような錯覚がこの身に安息をもたらした。息継ぎの間に目蓋を開くと、碧の水面が青空を望んで揺れている。滴る唾液は誘う蜜だ。ふわふわと操られる儘に、花弁の奥を暴いた。


【耳の後ろに舐めるようなキス】
奴の翼は速い。滑空する魔物が、襲い掛かるように不意打ちを仕掛けた。取られた背後は宵闇に染まり、白磁の唇が戯れつく先は獣の耳だ。「隙だらけだな」「警戒する必要も無え」先程までの動きとは裏腹に、奴が機嫌良く毛並みを舐める。尾を絡めながら抱き締め返すと、黒髪と角の根本へ柔く牙を立てた。


【戸惑う瞳に意地悪なキス】
白い指先が躊躇いなく自らの左眼を抉り取った。データの整理と削除に似た“操作”は時々行われる。「任務外の秘密は守る主義だ」「それにしたって勿体無え」まだ温かい眼球へ口付けると、角膜が戸惑うように揺れた。刹那に砕け散ったそれは、驚いた事に持ち主以外を弾くセキュリティまで備えていたのだ。


【手の甲にもっとしたくなるキス】
首元から足首までを覆う白い衣を、夜風が淑やかに靡かせる。月光に浮かぶ美しさは、まるで高貴な姫君を前にしているようだ。思わず手を取り、その甲へ口付けをした。「夜会のようだな」微笑う唇と声色は閑麗に、握り返した指先は艶やかに密会の約束を通わせる。誘い誘われ、舞踏はシーツに包まれた。


【冷たい唇にエッチなキス】
冷たい白磁の唇は茶を注ぐ前の器に似ている。薄い縁に口付けると体温が緩やかに伝導し、包み込んでいた掌に心地良く返ってくるのだ。啜る唾液は抹茶のように、とろりと仄かに甘く後を引いた。夢見心地の湯気が立ち上る。飲み干してなお代わりを湛えるその茶器は、俺の手の中で決して冷めることはない。
ほぼ日刊グリウルSS*2022/04

2022/05/01

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