好き!の伝え方10題
お題をお借りし(TOY様より)ピクログで書き溜めた140字SSのまとめですお題セットの順はそのまま、視点は都度表記しています
01 抱きつく
side*6
奴の燕尾が翻る時、別れ際ではないにも拘らず、漠然とした寂寥感が言葉より先にこの身を突き動かした。痩身はピッタリと両の腕に収まり、直下の黒髪に唇を寄せる。「これでは外出も憚られるな」穏やかな声色は、美しい笑みを伴っているのだろう。胸元で包まれた両手に、ひんやりと心地良い唇が触れた。
02 見つめる
side*4
青空を見上げると、程なくして二枚の木の葉が映り込んだ。瞬きの隙を突いて一息に距離を詰める。口付けの最中に見留めた色は丁度一つに重なり、まるで求愛する孔雀の羽だ。不意にその瞳孔が揺らいだ瞬間、奴が隠していた牙を剥く。熱に浮かされた目蓋の裏にまで、抜けるような青空が焼き付いていた。
03 からかう
side*6
「耳みてえ」外へ跳ねた髪の束を摘み上げ、愛らしい黒猫のようだと揶揄った。「ならばお前自身も同族であると認める訳だな」墓穴を掘ったと気が付いた時には既に、言い訳の効かぬ毛並みを白い唇が食んでいる。「同族なら悪い気はしねえか」帰刃の耳を擦り寄せると、肌触りの良い黒髪が頬を擽り返した。
04 やきもちを妬く
side*4
「目を離してやるな」「別に世話してる訳じゃねえんだけどなあ」ディエスの元へ送り届けた仔犬は嬉しそうに尾を振り、広い肩へ飛び移った。「こちらにも都合があるんだ」何時ぞやから仔犬に嫌われてしまったセスタの霊圧が遠巻きに棘を放っている。殴り込みに来る前に、愛猫の機嫌を取らねばならない。
05 プレゼント
side*6
いつか奴に贈ったガラスペンには今も新しいインクの跡が見える。次は携帯に耐え得るようにと、常盤色の万年筆に目を付けたのだ。「奇遇だな」見開かれた碧が揺れ、奴が差し出した天色のそれもまた、万年筆である。「早く試そうぜ」こそばゆい高揚感と共にインクを流し込み、揃いの紙へと走らせた。
(ほぼ日刊グリウル手帖表紙のお揃い万年筆より)
06 誘う
side*4
捲り上げた袖を引く。口を開くより先に、奴はすぐさま唇を寄せた。心根を悟った口付けが緩やかな前戯の始まりを告げる。心地良い夢へ踏み込む浮遊感が引き起こすのは、青空と雲の狭間に抱かれる錯覚だ。寝台が軋む音で現を認識する。熱を譲り受けた唇で先の誘惑を紡ぐと、夏空は獣の眼光へと豹変した。
07 特別扱い
side*6
奴が第六宮へ諸連絡を持ち込む頃には大抵他の任務は完了している。冷徹にこなす様と相俟って、特別であることに暫く気付かずにいた。「礼なら貰っているぞ」首を傾げると、綻んだ白い唇が続ける。「お前の紅茶は常に好みの味だ」思えば茶葉も砂糖もミルクも、無意識に焼き付けた奴の癖そのものだった。
08 チューする
side*4
名を呼ばれて目を覚ましたが、奴は俺を抱き締めたまま寝息を立てている。どうやら欲望が表れる部類らしい。「チューしてやろうか?」その夢と掏り替わる心地で戯れに囁いた。応えるように擦り寄せられた空色の髪が額を擽る。そっと唇を重ねると、伝う体温に微睡み、自らもまた夢の続きへ誘い込まれた。
(ほぼ日刊グリウルSSの1月お題【ちゅーして】を元に)
09 時々は引いてみる
side*6
レモンの香りで目覚めた時、奴は俺の腕を抜け出して台所に立っていた。いつもならその背を追う所だが、再び掛布に潜り込む。少し待てば紅茶は目覚めの口付けと共に手に入ると目論んだのだ。「狸が猫に化けているな」氷がベルのように鳴る。渋々顔を出すと、ファーストキスはグラスに奪われてしまった。
10 言葉で伝える
side*4
控えめに覗く犬歯と共に囁かれたその言葉が、心臓を貫き霊子のように流れ込む。初心を擽る面映ゆさも存外悪くないものだ。直後にこの身を抱き竦めた両腕は細やかな照れ隠しだろう。血色の良い胸板から視線を合わせ、揃いの感情を口にした。曇りなき真っ直ぐな言葉とは、時に口付けよりも胸を躍らせる。
好き!の伝え方10題
2022/07/12