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触れあい10題

*R18要素あり
お題をお借りし(TOY様より)ピクログで書き溜めた140字SSのまとめです
お題セットの順はそのまま、視点は都度表記しています


01 指切り
side*6

丸い卓上の鏡は、白い手によって曇りなく磨き上げられている。碧の瞳が大きく映り込むと、魅入られた魂の赴く儘に口付けをした。その瞬間、鏡は滑り落ちた足下で散り散りに花開く。構わず手を取り絡めた小指はいつも通りひんやりとしていて、口に出さずとも変わらぬ関係を約束されたような心地だった。
(1月11日 鏡開き)


02 額をこつん
side*4

ポケット代わりの脇あきに両手を突っ込んだまま大股で歩く背を望む時、愛おしさは悪戯心に火をつける。自身の同じ癖は棚に上げ、霊圧を消して忍び寄った。額より前に突き出た仮面で背筋を叩くと、両手は忽ち外へ飛び出す。耳を密着させて抱き締めれば、心臓がまるで手中に在るかのように温かく弾んだ。


03 はい、あーん
side*6

オレンジの髪の死神は正月の土産だと云っていた。持ち帰った弁当箱には、よく似た色のいなり寿司が並んでいる。「あいつの頭でも喰えってか」「蓮根は頭蓋といった所か」ふざけて摘み上げた寿司は既に半分、クアトロの口の中だ。入れ替わりに捩じ込まれた酢飯で、文句など飲み込む以外に道は無かった。


04 背中合わせ
side*4

広く温かい奴の背はどんな椅子よりも心地良く、本でも開こうものなら三頁も進まぬ内に睡魔を招く力を持つ。うとうとと微睡み始めた頃、その背凭れが大きく揺れた。「俺が動けなくなるじゃねえか」奴は角の先を噛みながら腕の中へ俺を囲う。背から離れてしまったが、抱き枕の役割もそう悪くはないのだ。


05 ほっぺぷにぷに
side*6

鋼皮の硬さと触り心地は必ずしも比例するとは限らない。奴の頬を伝う仮面紋に沿って指を滑らせると、その感触は人の姿に相応しいものだ。更に両手で包み込むことで白磁器に血が通う。ふと、行動の意図が見えぬと真正面の唇が俺の名を呼んだ。答えを秘めた口付けを交わせば、頬は柔らかく綻ぶだろう。


06 お姫様だっこ
side*4

破壊を司る王の傍へ歩み寄ると、不機嫌な空は忽ち澄み渡る。「眉間の皺が残っているぞ」揶揄いながら広げた翼でその身を捉え、額を覆う冠の仮面に口付けた。「こいつは癖だが、気分は最高だぜ」王はさも嬉しそうに牙を見せるや否や、俺の背と膝裏を支えて地を蹴り上げる。空の旅の特等席に翼は不要だ。


07 手取り足取り
side*6

閨を共にするようになって暫くした頃、奴が白い指先で触れながら口淫を申し出た。手取り足取り教えてやろうと、それはそれは舞い上がったものだ。しかし奴の洞察力と応用力が色事に於いても健在であったと思い知る。「お前の見様見真似だ」少しばかりの落胆は、白い紅が艶めく唇によって掻き消された。


08 胸に顔をうずめる
side*4

侵入した奴の指先は、体内から直接熱を分け与えるように温かい。甘く痺れてしまった腰は胡座に捕われ、柔く抱かれた胸板へ顔を埋めて喘ぐばかりだった。ふと吐息に炙られた唇が俺の耳を食むと、奴は今にも詰まりそうな声で顔が見たいと乞う。一筋に重ねた視線が、口を開くより先に色欲の箍を破壊した。


09 口元拭き拭き
side*6

狩った獲物を喰らう際、時折ひと手間加えたものが欲しくなる。「ならば調理させれば良い」クアトロによる鶴の一声で小間使いが運んで来たのは、苔桃のコンポートを添えた一枚肉だ。一口に頬張ると、白い唇もそれを追う。「これだから目が離せん」知らぬ間に跳ねた赤い果汁は拭われ、奴の舌で溶けた。
(2月2日 くちびるの日)


10 ちゅう
side*4

常夜の地平線が白み、やがて青空へ変わりゆく。夢から覚めると、青空の主が悪戯を仕掛けようとしていた。「また失敗かよ」「残念だったな」膨れっ面の奴に代わって口付けを贈る。「キスで起きるってェのは絵空事か」「浪漫があるじゃないか」口付けを上回る存在だと明かすのは、一頻り揶揄ってからだ。
触れあい10題

2023/02/08

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