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兎チックな10題×2 /その1(キュート編)

*R18要素あり
お題をお借りし(TOY様より)ピクログで書き溜めた140字SSのまとめです
お題セットの順はそのまま、視点は都度表記しています


01 最高の抱き心地
side*6

立っていても座っていても、寝転がる時さえも、奴の痩身はいつでも腕の中にピタリと収まる。角のある仮面は具合が悪いかと思いきや、今では隣り合うパズルピースのように必要不可欠だ。感触は決して柔らかくはない。しかし何より離れ難いその身体は俺の体温を湛え、ふたり混ざり合う錯覚を起こすのだ。


02 寂しくて死んじゃうよ
side*4

腰掛けた俺のすぐ傍で、横になったセスタは居眠りを始めた。俺に触れているのは空色の髪だけだが、何故だか安穏を得たらしい。その寝顔を眺めながら茶でも啜ろうと立ち上がった時だ。ソファから落ちた奴の手が知らぬ間に燕尾の裾を握っている。元通りに腰を下ろすと、寂しがりな手を取り口付けをした。


03 宝石のようなその瞳
side*6

深い翡翠色のチョコレートは宝石を模して仕上げられているらしい。思わず見比べた奴の瞳が魅力の理由を明確に気付かせた。「気になるなら並べてやろうか?」「いや、そこにある方が美味そうだ」眼球を抉りかけた白い手を慌てて阻止する。涙腺へ口付ける事で艶々と輝くその宝石が、一番の贈り物なのだ。
(2月14日 バレンタインデー)


04 威嚇のつもり
side*4

強制的に対面させたセスタと仔犬の仲を取り持つことにしたが、奴らは睨みを利かせたまま動こうとしない。「お前からも分けてやれ」不機嫌そうな馴染みの唇へ米粉の焼き菓子を口移しする。親愛の行為は小さな獣であっても勘付くものだ。ぶっきらぼうに差し出された奴の手から、漸く仔犬が菓子を齧った。
(2021年11月【後悔】より、解決編)


05 限界寸前に達したストレス
side*6

逢えぬ間に蓄積されたストレスによる癖が抜けきっていなかったらしい。「貧乏ゆすりとはお前らしくない」奴が口移しで寄越した温かい紅茶は仄かに甘酸っぱく、南国の花の色をしている。「バカンスにでも連れてってくれんのか?」「ああ、今からな」心地良い白魚の指先が肌を泳ぎ、俺の上着を落とした。


06 君は密かな人気者
side*4

五人の従属官に慕われ、処罰を受けてなお死神の主から見放される事はない。「それにしたって一度は任されてみてえよなあ」王を自負する奴にしてみれば、虚夜宮を統べる野望が先立つようだ。「そん時ゃてめえも一緒だ」他を惹き付けて止まない青空が真っ先に俺を映すと、密やかな蟠りは忽ち消え失せた。


07 普段めったに泣かない君が
side*6

白磁の器に酒を注ぐ絶頂には、壊れてしまわぬよう必ず両の掌でその身を包み込む。頬を伝う仮面紋を指先で遡ると、揺らぐ碧の水面が俺を映し出した。刹那に溢れたものが涙の軌跡と重なってしまう前に口付けで拭う。「律儀だな」奴はまだ泣き足りぬと唇を綻ばせながら、止まっていた俺の腰を引き寄せた。


08 バレバレの聞き耳
side*4

躑躅色の仮面紋を持つ少女が衣の裾を引く。「ここは怖くて、ネルたつも入ったこと無いんス」その廃墟は小さな城に似て、滞在にも支障は無さそうだ。少女と別れたのち、黙り込んでいたセスタの肩を叩く。「心配性だな」獣の耳が終始こちらへ向いていたことを笑うと、不機嫌な尾に絡み付かれてしまった。


09 強く抱いたら壊れてしまう
side*6

その魔物は骨がくっきりと浮かび上がる痩身である。強く抱くだけで壊れてしまいそうな錯覚を起こすが、奴の階級は俺より上だ。一瞬の躊躇いが伝わっていたのだろう。白い唇が獣の耳を食みながら囁いたのは、遠慮は要らぬという誘惑だ。操られるようにその身を押し倒すと、金の瞳が満足気に細められた。


10 どんな仕草も可愛すぎ
side*4

例えば廊下を歩く時、こちらの用事が済むまでそそくさと後ろを付いて回る姿はよく躾けられた犬のようだ。例えば寝転がった空色の髪を梳く時、欠伸と共に丸くなる様は日向の猫に似ている。そうしてすやすやと眠る獣を撫でてやれば、流れる長髪に沿って柔らかく倒れた耳が愛らしい兎とさえ思わせるのだ。

兎チックな10題×2 /その1(キュート編)

2023/03/12

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