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抱きしめ15題

*R18要素あり
お題をお借りし(TOY様より)ピクログで書き溜めた140字SSのまとめです
お題セットの順はそのまま、視点は都度表記しています


01 後ろから
side*6

奴の背を見ると、何故だか抱き締めたい衝動に駆られてしまう。自身より小柄であるからだろうか。それとも狩猟本能だろうか。「お前は存外、寂しがり屋だな」両腕にひんやりとした手が重ねられ、奴が揶揄とも欣喜とも取れる声色で云う。王は孤独なものだと思っていたが、離れ難い存在が先入観を覆した。


02 寝ころんで
side*4

一人用の寝台が然程狭く感じられないのは、決まってその腕に囲われるからだろう。奴は大きな欠伸の後に鼻先を俺の髪へ埋めると、両の掌でこの身を聢と抱き寄せた。成獣が見せる仔猫の仕草は愛おしさに拍車を掛ける。間近の胸を貫く代わりに細やかな口付けの痕を残し、体温に溶けゆく心地で眼を閉じた。


03 座り込んで
side*6

五月晴の日は出掛けたくなるもので、床に座り込み広げた現世の地図を眺めていた。「さっぱり分かんねえな」「地名ばかり見てどうする」ふと馴染みの体重が肩に掛かり、そこから伸びた白い指が起伏の濃淡を指す。「黒腔なら山頂も海底も可能だ」奴の極端な申し出が、二人きりを楽しむ為の閃きを授けた。


04 軽く会話しながら
side*4

「ソフトクリーム食いてえ」膝上に俺を囲いながら角を食んでいた唇が呟いた。「言動が一致しないぞ」「白いし、甘めえ気がする」「ならばこちらの方がマシか」腕の中から口付けてやるが、体温は却って上昇したようだ。「女に店を訊いておこう」暑がりな夏空が透き通っていく様は、何度見ても飽きない。
(7月3日 ソフトクリームの日)


05 お姫様抱っこ
side*6

しばしば砂上に見慣れぬ痕跡が残るのは、様々な形態の虚が棲むからだろう。目の前にはまるで今日の為に設えたような水無川が広がっていた。「この程度、起伏の内に入らんだろう?」白い衣を纏う姫君を両手で抱き上げると、薄い唇が不思議そうに問う。別たれてなどいなくとも、願いとは自ら掴むものだ。
(7月7日 七夕)


06 首に腕を回して
side*4

空色の襟足へ絡めるように腕を回し、背伸びの口付けをする。急な接触に奴は一瞬慌てたようだが、大きく温かな掌はすぐさまこの身を逃すまいと抱き締め返した。思惑通り捕らわれてしまえば、後はその腕に身を任せるのが得策である。気を良くした獣は正しく寝台を選び、覆された幸福へ連れ去るだろう。


07 振り払われても離れずに
side*6

振り払っては逃げる白い手を漸く掴んで引き寄せるが、それは死を迎えたかのように凍え、やがて砕け散った。「温かい茶で正解だったな」冷や汗をかいていたのだろう。目を覚ますと馴染みの手が俺の額を拭っている。湯で温まっていたその指は、次第に冷たさを取り戻しても夢とは正反対の安らぎを齎した。


08 寝ぼけて
side*4

奴は俺を抱き締めたまま器用に喉を鳴らしながら眠っている。愛猫らしく指先で撫でてやると、青空が緩やかに姿を現した。「ウルキオラ…が、猫じゃねえ…?」この身を確かめる寝惚けた掌が滑稽で愛らしい。「残念だったな」現へ返った青空が面映ゆく逸らされるが、先回りは仔猫を追うより容易いのだ。


09 胸に頭を乗せて
side*6

胸にピタリと寄せられた頬が緩やかに発熱していく。火種を巡らせた切先は愛でる程に馴染み、まるで俺の掌に合わせて形を変えているのではないかとさえ思えてくるのだ。碧は滔々と水を湛えているが冷却など無縁で、映り込むだけで虜にされてしまう。やがて訪れる絶頂にて、美しい刀身は完成するだろう。


10 数人で抱きしめ合い
side*4

例えば三獣神の喧嘩が過熱する頃、差し伸べられるトレスの手は鎮火と幸福を与えるらしい。例えばセスタと戯れに腕を回す五人の従属官は、ただ敬うだけではない深い絆が見て取れる。「人数は多い方が良いものか?」「そいつァまた別だな」欣喜を纏う口付けと馴染みの腕が、仄かな寂寥感を吹き飛ばした。


11 キスしながら
side*6

グラスの氷が軽やかに鳴る。艶々と濡れた白い唇が重ねられると、まだ冷たさを保つ紅茶が心地良く喉を潤した。茶葉が纏う梨の香と相俟って、瑞々しい果実の錯覚を見せるようである。更なる代わりを求めてその痩身を抱き締めれば、果肉は温かく溶けていく。蜜漬けが手に入るまで、そう時間はかからない。


12 正面から
side*4

その切先はこの身を裂くこと無く、しかし確固たる存在感を内側から覚え込ませる。擦れ合う臓器が過熱すると、肺は切なく霊子を求めて呼吸を促した。ふと揺らぐ視界が青空で満ちるや否や、甘やかな口移しの吐息が不足を補っていく。「まだ、不充分だ」心地良く気怠い両腕を伸ばし、奴の背を引き寄せた。


13 すがるように
side*6

奴が持つ白磁の唇はどんな甘味も敵わない。唾液と熱を加えることで、それは砂糖のように甘く蕩けていく。少々夢中になり過ぎたようだ。慎ましやかな白魚がしっとりと腕を泳いだかと思うと、縋るように俺の袖を引く。「安心しろ、キスだけが欲しい訳じゃねえ」主菜を楽しむには前菜の充実が肝要なのだ。


14 お尻を触りつつ
side*4

座した獣の膝に跨り、耳の毛並みを食むように繕う。機嫌を如実に表す白い尾が揺れる度、愛おしさは口付けへ変わりゆく。不意に耳がピンとこちらを向いた。俺の腰を支えていた掌は尾から燕尾を潜り、尾骨を捉えて引き寄せる。青い地鏡の視線に射抜かれると同時に揃えた兜が、この身を髄から痺れさせた。


15 ぎゅっと抱き合い
side*6

無条件で抱き締める事は、時に言葉よりも本意が伝わるものだ。黒髪に頬擦りをすると、奴もまた両腕を以て応えた。仔猫のようだと笑われる前に口付けてしまえば、立場は対等になる。静かな獣は戯れ合う内に、やがて成熟していく。上昇する熱により揃いの感情が交わされ、互いの身体は虚ろを満たすのだ。
抱きしめ15題

2023/08/17

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